立ち読み師たちの街

襤褸は着ててもロックンロール

佐々木中『切り取れ、あの祈る手を』(河出書房新社、2010)を読んだ。作家の後藤明生さんが「何故小説を書くのか」と自問して「小説を読んでしまったから」と、あの独特の人を食ったような不思議な感じで答えていますね。これは、実は同じことなのですね。…

ある方に勧められて清水義範『ドン・キホーテの末裔』。著者自身を思わせる作家が、『ドン・キホーテ』をモチーフにした小説を書くというメタフィクションで、作中作の他にも講演、エッセイ、小説論などいろいろな文体で構成される。「現代においてパロディ…

カズオ・イシグロの第二作『浮世の画家』(An Artist of the Floating World、1986年/ハヤカワepi文庫)を読んだ。イシグロ作品を読んだのは『夜想曲集』以来二つ目。舞台は1948年から1950年にかけての日本。語り手は大戦中に戦意高揚絵画を描いてかなりの…

石川美子『ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家』中公新書、2015。 バルト本を何冊も訳してきた人物が、200ページ強の分量で彼の人生をザッと駆け抜ける評伝で、非常にクリヤーな書き方で面白くアッという間に読んでしまう。 権力的であることを一…

四月に読んだもの

よしもとばなな『白河夜船』新潮文庫 ひとに勧められて十年以上ぶりに著者の小説を読んだら、太宰治のようにすーっと染み込んでくる語りで、実際四半世紀前の作品といってもニート生活に漂うバブリー感のほかは古びた感じがしない。新しいあとがきもパワーフ…

矢部嵩は天才である。(5)――『〔少女庭国〕』

1 卒業式の日、女生徒たちが会場へ向かう長い廊下を歩いていると、ふいに見知らぬ部屋で一人眠っていた自分に気がつく。壁には何やら指令書のようなものが貼り付けられており、「死亡した卒業生」なる不穏な言葉が見受けられる。どうやら、自分たちはここに…

矢部嵩は天才である。(4)――『魔女の子供はやってこない』

四年ぶりの長篇 第三作『魔女の子供はやってこない』(角川ホラー文庫、2013)は、前作『保健室登校』(同、2009)からちょうど四年ぶりに刊行されました。技巧と物語が高度に洗練されたこの小説は、おそらく矢部嵩的世界の現時点での頂点を極める作品で、私…

矢部嵩は天才である。(3)――『保健室登校』

冒頭の描写から 矢部嵩的世界においては、殺人や人体損壊などの残虐かつグロテスクな行為が登場人物にアッサリ受け入れられる場面が少なくない。それを記述する場合、われわれの「日常」において「平易な文章」として通じるものとは異なる書き方が必要なのは…

三月に読んだもの

坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) 十年ほど前から散々噂を聞いていたが、確かにキュンキュンする個所多し。ところで、各編の扉裏のポエムは良いとしても、末尾に白ページが2ページ続いたりするのは、いったいなぜなのだろう? 麻耶雄嵩『名探偵 木更津悠…

矢部嵩は天才である。(2)

(承前) その文体 私が矢部嵩botの抜き出した文章に眼を洗われる心地がしたのは、その言葉が磨きぬかれ、紋切り型を脱臼させる独特のユーモアを持っているように感じられたからだ。それは『紗央里ちゃんの家』で感じたのとは異なるものと思った。 ところで…

矢部嵩は天才である。(1)

はじめに 矢部嵩は現代における真の天才であり、その小説は世界文学である。 以上。 ※ とだけ書いて皆様がフムフムもっとも僕も私もそう思うと大賛同の輪が世界中に広がれば万々歳なのだが、残念ながらまだまだ御納得いただけない方もおそらく多いことと思料…

二月に読んだもの

もう今年も六分の一が過ぎたのか。 古野まほろ『絶海ジェイル Kの悲劇’94』(光文社文庫) かつて北山猛邦が「ボールペン一本でも物理トリックに利用することができる」というようなことをインタビューで答えていたのを読んだとき私は感動した。今作の困難…

一月に読んだもの

市川哲也『密室館殺人事件 名探偵の証明』(東京創元社) 鮎川賞受賞作に続く第二作。やっぱり色々と無理が出ていた前作(老年にさしかかった男性の一人称)に比べると、青年を語り手にしていて格段に読みやすい。デスゲームの雰囲気がユルすぎる、という意…

十二月に読んだもの

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 小島信夫『月光・暮坂 小島信夫後期作品集』(講談社文芸文庫) 死去直前まで本人も携わっていた短編集で、「後期」といっても九十年代までの作品を収録。『対談・文学と人生』の話から書くこ…

十一月に読んだもの

周木律『伽藍堂の殺人』(講談社ノベルス) 結局このシリーズは、強引に続行が決まった二作目以外は、いろいろ不自然に感じるところを括弧に入れれば、なかなか楽しめるのではないかと思い始めてきました。 早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』(講談社ノベルス) 四…

十月に読んだもの

野崎まど『舞面真面とお面の女』『小説家の作り方』『パーフェクトフレンド』(メディアワークス文庫) だんだん面白くなっていく感じで、特に『パーフェクトフレンド』は傑作だと思いました。 小島信夫『小説の楽しみ』『書簡小説論』『演劇の一場面』(水…

『Before mercy snow 田波正原稿集』を読む

1 去年のうちに入手していたものの、レビューされている作品になじみが薄い(主にSF)ことからチビチビと読んでは残していた『Before mercy snow 田波正原稿集』(名古屋大学SF研究会、2013)を、ようやく頭から一気に通読した。収録原稿は名大SF研の機関誌…

続・蓮實重彦のフローベール、「ハサミ男の秘密の日記」

蓮實重彦『『ボヴァリー夫人』論』のアナウンス。「新潮」2014年1月号に序盤が先行掲載、同年春に筑摩書房より刊行、との由。 しかしこう書いた一週間後に続報が出るというのは、なんだか自分が超能力でも使ったかのような気がしてくる(勘違い)。 ※ またま…

Before mercy snow

昨日ご紹介した『Before mercy snow』は今日の文フリで、開場30分も経たないうちに売り切れたらしい。 私は行けなかったので、後日の通信販売を待つ予定だけれど、入手した方の反応を見ているといろいろ待ち遠しい。 ※ ところで今日T「殊能センセーの本名を…

ピーター・ディキンスン『生ける屍』を読んだ

今年六月にちくま文庫から復刊されたピーター・ディキンスン『生ける屍』(神鳥統夫)を読んだ。この小説は、読者によっていろいろなふうに読まれているらしい。たとえばAmazon当該ページのレビュー(2013年8月27日現在は8つ)から言葉を抜き出してみると、…

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その3)

(前回の続き)『チラシ』内でも監視の目は強い。経営者ブーテンベルクは、植字工員には「動じない心が必要だ」などといって、抜き打ちで語りかけてくる。この声に動揺しては罰せられる。つまり機械のように働くことが求められている。さらにブーテンベルク…

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その2)

単行本 単行本版を読んでみると、文庫版にはなかった記述がいろいろ見られたため、「改稿のさい、かなり削ったのでは?」と思った。そこで、3バージョンの文字数を「1行あたりの字数×1頁あたりの行数(×段組数)×頁数÷400字(=原稿用紙換算)」で概算な…

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その1)

先日、青木淳悟のデビュー作「四十日と四十夜のメルヘン」で読書会を行ったというKUSFA http://blog.kusfa.jp/article/270788369.htmlの方から、この作品どう読みました、と聞かれて「ウッ」とつまった。単行本の『四十日と四十夜のメルヘン』を6年くらい前…

『円朝芝居噺 夫婦幽霊』を読んだ。

辻原登『円朝芝居噺 夫婦幽霊』で読書会。私は当初、全編を楽しく読んだ。「夫婦幽霊」本編が終わった後の、「訳者後記」〜「円朝倅 朝太郎小伝」の部分、つまり全体の終盤、オチに関しては、駆け足の感もあり、「ここが評価の分かれ目かな」と思っていた。…

アリバイづくり

更新の穴埋めに、ちょうど2年ほどまえに、読書コミュニティサイト「たなぞう」に2つだけ書いた感想を少し修正して上げておく。 ※●名探偵モンク モンク、消防署に行く (ソフトバンク文庫NV) 《米の人気推理ドラマのノベライズ第一作。ドラマの脚本家(推理作…

パラソルの微風――今年買った本で良かった装幀

あれ、もう12月か……。 「クリスマス・ファシズム」という言葉は、恋人のいないもてない男が半ば自虐ネタ気味につぶやくもの――という理解なのだが、そう言う男は結構敏感ではないかと思う。気にしなければまったく気にならないし。繁華街に出かけずテレビも見…

ウッドハウス漫画

現在のP・G・ウッドハウス翻訳隆盛の端緒となった『比類なきジーヴス』が、国書刊行会から3巻シリーズの第1巻目として出たのが2004年の秋だから、ほぼ5年が経とうとしている。その間に国書刊行会をはじめ文藝春秋、集英社と、10冊以上が訳され、勢いは…

1980年代の福音館書店

最近はロクに本も読まずに、適当な引用・感想で逃げてばかりですが、今回も逃げます。(いやホント、土岐眠君のマメさは凄いわ……) ※ 唐突だが、漫画のタンタン・シリーズが大好きだ! 貴方はご存知だろうか? タンタン。 フランスの新聞連載漫画で、青年記…

インフルエンザだぞ私は

そろそろ引っ越そうというのに帰省先でインフルエンザにかかって、三日寝たきりでもちっとも回復しないし、高校時代は一日休んだらスッキリしたもんだけどな、こりゃあ体力が落ちたか、と考えると先が思いやられるし、そうボヤいてる間にも膨らんだ両目の奥…

続・文庫化

『快楽の館』来月、河出文庫化か……。 比較的手に入りやすい作品なのがナンだが、なぜこのタイミング……。 あと坪内祐三『ストリートワイズ』 講談社文庫化も謎……。『どうで死ぬ身の一踊り』文庫化で解説を書く際にそういう話があったんだろうか。 また『ダブ…