TBCN

襤褸は着ててもロックンロール

ジョン・フォード「ハリケーン」(1937)

 クローバー・シアターでジョン・フォード映画初見。
 舞台はフランスが統治する1920年代のツアモツ諸島のマヌクラ島。現地人である青年主人公・テランギは一等航海士で、島民やフランス人の信頼を集めていた。
 タヒチに寄ったある日、酒場でからんできた白人を殴ったテランギは、逮捕され懲役六箇月となってしまう。折りしも彼は結婚したばかり。島には新妻のマラマと、彼女の腹に宿る娘がいた。彼は必死に脱走を試みるが、刑はますます重くなっていく。
 島では彼を信頼する医師や総督の妻が、テランギの釈放をかけあうよう総督を説得していたが、「法には従うべきだ。彼は法を破った」と全くとりあわれない。
 そして八年が過ぎた頃、テランギはとうとう脱走に成功し、島に帰ってきた。妻と娘との再会に喜んだのもつかの間、帰還を知った総督が彼を捕らえようとする。逃れるには、禁断の島へと向かうしかない。
 その時、島には嵐が近づいていた。

 冒頭、医師が船上から、ごく小さな島(実はハリケーンのため沈んでしまった)に投げキスをする。それを見た同乗の女性が何をしているのかと尋ね、医師は「昔、ここは美しい島だった。ここを通る度投げキスするんだ」と語り、過去を振り返る。
 続いて映るサモアの描写が良い。船の帰還を喜ぶ島民のテンションはやたら高いし、緑や砂浜も美しい。恋人のマラマを木の上に見つけたテランギが船のマストから海に飛び込み、マラマも木から飛び込んで、互いに泳ぎ寄る構図から、上陸して二人が抱き合うシーンを見ただけで、何だか嬉しくなってしまう。
 そう、この映画、構図がガッチリ決まってると思った。台詞も大変効果的。テランギの脱出が失敗し続け、懲役がどんどん伸びていく場面は哀切だし、嵐の前夜、テランギ捜索の船を出すことを決意した総督が、風が吹き荒れ真っ暗な部屋の中、「テランギは今ここにはいないのに、まるで俺を見ているかのようだ」と言い、医師が「テランギは海だ。自然の驚異を目の前にすれば、あんたも法だの何だのとはいってられなくなるだろう」というシーンの緊張感の高まりときたら。
 でもやはり何といっても、島が暴風雨に襲われるシーンが壮絶。「えっ、ここまでやるの」というくらいの容赦なさなのよ。テランギ一家と総督の妻が大木に登って耐えるのには勿論、医師がちゃちなボートの上でマラマの妹のお産を手伝う(!)のには、「こんな時に船で出産て! 頭おかしいんじゃないの!」とジョン・フォードに言いたくなるくらい、ハラハラさせられる。1937年にアカデミー録音賞を獲り、39年に特殊効果(視覚と聴覚)部門をつくる契機となったというのも納得の特撮だなあ。
 久しぶりに良い映画を観た。