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立ち読み師たちの街

襤褸は着ててもロックンロール

十三の呪 死相学探偵1

三津田信三先生の最新刊は角川ホラー文庫から。初めてキャラクターものに挑戦したという。

主人公は弦矢俊一郎20歳。日本全国にその名を轟かす霊能力者である祖母の力を受け継いだのか、幼い頃から人の「死相」が見える。小学生の時に友人と怪異に襲われて以来、祖母と怪奇小説家の祖父に守られ育てられてきた。
その能力ゆえに性格はひねくれ気味。祖母を手伝う以外は外界とあまり交渉はなく、高校を出てからもしばらく祖父母と暮らしていた。
そんな彼がいよいよ独立し、「探偵事務所」を開業した。初めての依頼者は結婚式を直前にして夫を亡くした内藤紗綾香だ。夫の死以来、夫の実家である入谷家では不吉な事件が続発しているという。いったんは彼女を返した俊一郎だが、再びやってきた彼女に不吉な異変を認めるとようやく屋敷へ調査に乗り出す。
一代で食品会社を大きくした、ワンマン社長である父親が死んでからは、没落気味の入谷家。家族の反対にあいながらも調査を続ける主人公だったが、やがて入谷家の人間が次々と「心不全」で死んでいく。これは誰かの呪いなのか?

ホラー、ミステリー、どちらにしても軽めの内容だ。例えば『凶鳥の如く〜』や『禍家』など、最近の三津田の小説は「これはどの程度ホラーなのか? ミステリーなのか?」といった、作品の着地点が読めない展開が話をドライブしていくのが面白かった。
この本もそういった風味はある。が、結構あっさりしている。
入谷家で起こる「怪異」の例を挙げると、
・階段で足を踏み外す
・毛虫に刺される
・七味が気管に入って苦しむ
と、笑っちゃうくらい「フツー」なのである。そこから急に心不全で死んでしまうまでの差が怖ろしい。この「怪異」の法則を見つけ、主人公はどうやって「祓う」のか? それがこの小説の主眼だ。逆に言えばそれだけ、なのかも。
彼の密度の高い長篇に比べて割と早く、2、3時間くらいで読めてしまうだろう。

以下雑感。
主人公の性格が中途半端な感じ。帯には「クールで、ちょっと不思議な探偵」と書いてあるが、それが突き抜けたキャラクター像を作るまでには(この1巻目では)至っていない。だったら、もうちょっと会話しても良いのでは。(何しろ冒頭、依頼人を見た途端、死相が見えないとわかると「帰ってくれませんか」だ。ここは面白い。台詞だけだと幽霊狩人カーナッキである。)
中途半端な感じ、というのは、おそらくこのシリーズは主人公の成長を予定している。だからか、主人公の心理に揺らぎがある。
メルカトル鮎までの道のりは遠い。

あと次のシーン。
再度訪れた紗綾香の身体に、俊一郎は黒いミミズのようなものが這っているのを見る。詳しく確かめるべく、彼は何と、紗綾香に全裸になるよう命じる。

「彼女の姿態がなまめかしいだけに、その眺めは物凄くグロテスクである。が、同時になんとも言えぬエロティックさも漂う。倒錯のエロティシズムとでも言うべき雰囲気を、彼女はまとったまま震えている。」(p89−90)

いや、これが、全くえろくないんだよね……。表紙もアニメ絵だし、「エロ・グロ・ナンセンス」路線を狙ってないのはわかる。しかしそれなら、サービス・シーン(?)はいらないのでは……。

あと、著者お得意の、異様な人物とのホラー映画ばりの追いかけっこの場面はさすがの迫力でした。

十三の呪 死相学探偵1 (角川ホラー文庫)

十三の呪 死相学探偵1 (角川ホラー文庫)