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襤褸は着ててもロックンロール

彼女(たち)について……

古本でも文庫版(2002)に出会えないので、金井美恵子『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』(2000)を単行本で買った。
単行本も今やあまり見かけないのだが京都の有名個人書店、三月書房で「定価から60%引き」のセール価格だったので、手に取った。

内容は、『小春日和 インディアン・サマー』の主人公・桃子が、あれから十年、「紅梅荘」に住み続けながらフリーター生活をしていたところへ、出版社に勤めていた親友の花子が退職して荘に帰って来、岡崎さんという隣人も越してきたことで、小説家のおばさんを交えた四人で、食べたり飲んだりしながら喋りまくる……のがメイン。
そこに弟の結婚、母親の再婚まで絡んできて、周囲の状況も変わりだし、桃子も「このままで良いんだろうか……」と焦りを感じつつ、また飲んで食ってお喋りに興じる。

母親の結婚の話などはかなりドラマチックになるはずなのだが、着ていく着物がどうのこうの、と言っている間にいつの間にか終ってしまい、また会話に戻るので、読むと「なんかずーっと会話を聞き続けていたなあ……」という気になる。

『小春日和』には小説家のおばさんによる文章が、エッセイ六篇、短篇小説二篇入っている(私は特に「花物語」という短篇が好きだった)。それに比べ、『彼女(たち)』は長いエッセイが一つ入るくらい。しかし目を惹くのは、横浜国立大学の入試の国語の問題が挿入されていて、それを小説家のおばさんが解くのだが、それが金井美恵子プラトン的恋愛』の読解問題なのよ(実際に出題されたのだろう)。作中世界では、おばさんが『プラトン的恋愛』の作者ということになっている。
だから「あとがき」で、
「この小説の中で、『語り手』のおばさんである小説家――少し『作者自身』を思わせる存在です――」
とヌケヌケと書いてあるのには、ちょっと笑ってしまう。

作中の会話のネタで、その後書かれたエッセイ『目白雑録』でまた使われているのも幾つかある(庭師とブルース・ウィリスとか)。だから『目白雑録』を先に読むと、既視感を覚えたりも。

で、私はこの本を三月書房で買った、と先に言った。奥付を見ると私が買ったのは第二刷で、初版が2000年5月1日、二刷が2000年6月20日と書いてあるから、けっこう売れたんじゃん? と思うのだが、今まで売れ残って、「60%引」だったのだ。
その三月書房は、姉・金井久美子が京都で仕事をしたついでに寄った、として『目白雑録』にもチラッと出てくる。
「……本の品ぞろえが、先一昨年につぶれた椎名町の本屋みたい、思想批評コーナーに、吉本、柄谷、ベンヤミンはあっても、蓮實、ジル・ドゥルーズはなく、京都なのに浅田の本もない(とはいえこれは本をもう十年は出していないのだからなくて当然だけど)、映画の本のコーナーには、蓮實がなくて加藤と川本っていう本屋でさ、……」
もちろん、その『目白雑録』も三月書房には置いてある。
いや、良い本屋さんだと私は思いますケド。