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襤褸は着ててもロックンロール

ウッドハウス漫画

現在のP・G・ウッドハウス翻訳隆盛の端緒となった『比類なきジーヴス』が、国書刊行会から3巻シリーズの第1巻目として出たのが2004年の秋だから、ほぼ5年が経とうとしている。その間に国書刊行会をはじめ文藝春秋集英社と、10冊以上が訳され、勢いはまだまだとどまる所を知らない。
多すぎるくらいだ。ペースが早い。短い間にそんなに読みきれない。最初の方は熱心においかけたものの、この3年ほどはさぼっていた。最後に読んだ『ウースター家の掟』は素晴らしかったのに。
いわゆる「ジーヴスもの」は、貴族の若旦那バーティーとその執事ジーヴスの話で、バーティーとその周囲のいいご身分な金持たちの巻き起こすバカ騒動を完全無欠の執事ジーヴスが毎回、解決するという――ドラえもんみたいな――定番パターンなのだが、時にマンネリ気味になりながら、ストーリーはあの手この手で波乱万丈、当時(約100年前)の風俗も描かれた楽しいシリーズ。
『ウースター家の掟』は長篇で、ギャグもさることながら最後の解決もキマッている。若造のくせに「こ、これは俺の人生ベスト10に入るゼ……」と思っていたら、年末の『ミステリ・マガジン』のランキングで霞流一氏も「私の人生のベストなんとかに云々」、と確か言っていたように思う。
勝田文『プリーズ、ジーヴス 1』(白泉社)のストーリーは、連作短篇集である『比類なきジーヴス』に基づいている。
あー、なるほど、あったあった、こんなシーン。と気軽に読めた。
しかし森村たまき氏の訳文が偉大だったなあ、と思うのは、この漫画を読むと「うーん、小説の方がもっとはっちゃけてたな……」と思うことで、『比類なきジーヴス』を読んだ時は、もっとバカで下品でテンションが高かったような気がする。
なにしろもう3年も読んでいないのだから、どこかしら美化されているのかもしれないが……この漫画の方が語り口は冷静に感じられる。バーティーもちょっと大人っぽい。
小説と漫画の間の違いなのだろうか!? 小説はバーティーの一人称で、いわば半ば信頼出来ない語り手状態(?)なのに比べ、漫画はもっと如実に他者の姿を映すから……という話は間違っている気がしてきたのでおいておいて、とはいえ、そんなのは別にイチャモンでもなんでもなくて、実に面白い漫画で、次作はどのストーリーかと思うと、待ち遠しい。

プリーズ、ジーヴス 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)

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