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立ち読み師たちの街

襤褸は着ててもロックンロール

【記録シリーズ1】青い薔薇

更新頻度を上げるために、新シリーズを始める。仮に「記録シリーズ」と題を借用する。
この一年ほど、何か思いついたらTwitterにて連投することが多かったため、あとで振り返ろうと思ってもなかなか検索しづらい……ということが起こりがちだった。そこで、短くとも後々のために記録に残していこうというのが今回の狙い。一人称だとか三人称だとかいったスタイルにとらわれず、ノートのように自由にアイデアを書き付けていく。どうなるかは勿論私にもわからないが、元々、断章形式への憧れは深かった。決定的だったのは去年、キニャールの『音楽への憎しみ』を読み終わったためだと思う。内容は雑多になるはずだが、ここのところ興味のあるテーマは限られているので、その周辺をめぐるものになるだろうか。それらをまとめていく意図もあるから、続いて欲しいのだが。
 ※
ある男が朝の早い時間に、タクシーに乗りながら新聞を読んでいた。ちなみに毎日新聞だ。おもむろに紙面をめくっているうち、たまたま一つの記事に出くわす。「青い薔薇 開発に成功」。そこへふいにラジオからニュースを読み上げるアナウンサーの声が聞こえてくる。「昨日、サントリーの研究グループが幻の“青いバラ”の開発に成功したという、……」。内容はほぼ記事と同じ。(フーン……)するとたちまち連想が働いた。『虚無への供物』。そうだ、懐しの探偵小説! 私がもっとも印象深いのは、やはり講談社文庫版の装画、大島哲以「薔薇刑」。これが塔晶夫の親本になると真紅の一輪が画面を横に走るのだが、あのなんだか床がチェス盤のような市松模様になっている奇妙な空間の、ちょうど真ん中あたりに踊り出したマンドリンか何かの弦楽器をもった頭部が青ざめた薔薇に置き換えられた男(いや胸元の大きく開いた服装にやわらかく丸みを帯びた肢体からすると女なのか)……、初めて読んだのは確か修学旅行で北海道へ行った時で、そうとは知らずに旅のあいだポケットに入れて持ち歩いては読み進め、当然ながら帰る頃にはボロボロになっていて、ビロードのカーテンがさっと閉じられたのは戻りの飛行機のなかだった。――そんな懐しい記憶を思い出すままにまかせていると、不思議な気持ちがどこからかふつふつと湧いてきた。一体なんだ? 男は自分でもいぶかしく思うが、わからない。しばらくぼうっと、窓の外でも眺めてみる。つかまらない。いらだたしい。思わず歯をきしる。「お客さん、どこか具合でも悪いですか」「え? ああ、いや……」ドライバーに素っ気なく答えると、両腕をくんで深く座り直した。いったい何がひっかかるのだろう? しだいに陽の光が強くなってくる。青い薔薇……。