立ち読み師たちの街

襤褸は着ててもロックンロール

【記録シリーズ12】鳥目

前回のジャック・イベールの話を再読した後、しばらくして「鳥といわゆる鳥目とはいったいどういう関係になっているのだろう?」という疑問がふと湧いた。鳥目の“鳥”はニワトリのことを指すのだろうが、夜行性の鳥なら沢山いる。ナイチンゲールもおそらくその一種なのだろう……そう思ってしばらく検索してみると、どうも人間との視神経の違いによるものらしいことはわかった。
鳥目といえばビタミンA不足だ。私は幼いころから視力が弱かったので、心配した親から一時期、野菜ジュースをたくさん飲まされた。にんじんにビタミンAが多く含まれるためだ。近くの商店街にある八百屋で特製品が売られていて、瓶の底にたまったオレンジ色の繊維を全体に行き渡らせながら朝、コップにだいたい200mlの容量で一杯飲むのが日課だった。
それが紅茶かコーヒーに変わったのはいつからだろう? もう眼鏡やコンタクトレンズが一生手放せないくらい悪化したことがわかって、小手先では焼け石に水だと考えたのか?
そういえば、「テレビにあまり近づきすぎると目が悪くなるから離れた方が良い」ということも近頃あまり言われなくなったように思う。以前は、「テレビの対角線の長さ×3倍の距離を取らなければならない」とよく言われていたし、実際にそう主張する眼科医(?)の新聞コラムも読んだ記憶がある。
昨年末、久しぶりに実家に帰った際に驚いたのは、いったい何十インチになるのか、巨大な薄型液晶テレビが茶の間に鎮座していたことだった。親は二人とも健在だが確かに老いた。しかし、明らかに「対角線の長さ×3倍」を取ろうと思えば隣室まではみ出さざるをえないこんな物体を一日何時間も眺め続ける今の二人にとって、我が子の野菜ジュースに賭けた熱意はどこへ行ったのか? すっかり忘れてしまったのか? 「テレビを観る時は部屋を明るくして離れて観てください」――こんな警告が一時期、特に子供向け番組の冒頭にテロップで出ていた。が、こう本体が巨大化してしまっては、狭い家屋の中ではもはや子供に逃げ場がないのではないか? ブラウン管と液晶とでは危険度が違うということか? また土曜や日曜にアニメや特撮を何時間も連続して流せば、子供がテレビ漬けになるのも仕方のないことではないか? そしてそのまま歳をとって大きくなるのも避けられないのではないか? それと受像機本体の巨大化とは何か関係があるのだろうか?
私の住まいにはテレビがない……といっても目が悪いのは相変わらずで、それに今やパソコンを覗かない日はないのだし、昔の家庭基準でいったら話にならないほど最悪だ。多くの人間がきっと同じようなことを考えているはずだ。新聞コラムを書いていたあの眼科医(?)は何をしているのか? 最近はといえば、国内だけでも何十万何百万何千万という人間が、起きているあいだはもうもっぱら、細かな記号を眺め続けて暮らしているのだから、――
とある男は思い、眉根のあたりを両方とも押さえて揉みしだくと、眼精疲労に特有の深く痺れるような痛みが急に広がり、慌てて少し力をゆるめる。