立ち読み師たちの街

襤褸は着ててもロックンロール

「メフィスト」、「メタポゾン」

 殊能将之の「ハサミ男の秘密の日記」、公式にも情報が出た。千街晶之氏の発言によれば、メフィスト賞受賞前後のことを綴った文章のようだ。
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メタポゾン」第十号をようやく入手。これまで書店の文芸誌コーナーに置かれていたのが、なぜか地方・小出版社コーナーにあり、今日まで見つけられず、直接注文しようかというところだった。
 さっそく、“某大手文芸誌に掲載が予定されていながら、寸前に中止となった問題作”であるという樺山三英「セヴンティ」を読む。作者の言葉によれば、本作は大江健三郎「セヴンティーン」を参照したものらしい。
 しかし、冒頭から振るっている。最初の一段落を引いてみよう。

 今日はおれの誕生日だった。おれは七十歳になった。セヴンティだ。家族のものは父も母も、兄もみな、おれの誕生日に気がつかないか、気がつかないふりをしていた。それで、おれも黙っていた。だが黙っているうちに気がついた。おれにはそもそも家族なんていない。父も母も兄も、みんなとっくに死んでしまった。おれはいま天涯孤独の身の上だ。まったくの独りぼっちだ。独りぼっちのセヴンティだ。なぜそんな勘違いをしてしまったのかわからない。そういえば昔、そんな本を読んだことがあった。ずいぶんと昔だからもう正確には覚えていないが、たしかそういう書き出しだった。おれはきっと本の中から、そんな言葉を盗んできたのだ。

 長さは30枚程度。時代設定は、終盤に「元アイドル」という少女が〈三十六年前のあの日、たしかに過酷な事故がありました〉と述べるから、おそらく2047年なのだろう。そう、作者自身は1977年生まれだから、まったく自身と同年代の老人が語り手とされている。
 続きが気になる方はぜひ、本文に当っていただきたい。そう厚くはない文芸誌が2000円と値段が張るかもしれないが、“某大手文芸誌”(ってなんだろう?)にない自由さ、アクチュアルさがそのぶん、この雑誌にはある――ということなのだろう。