立ち読み師たちの街

襤褸は着ててもロックンロール

十一月に読んだもの

周木律『伽藍堂の殺人』(講談社ノベルス
結局このシリーズは、強引に続行が決まった二作目以外は、いろいろ不自然に感じるところを括弧に入れれば、なかなか楽しめるのではないかと思い始めてきました。
早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』(講談社ノベルス
四分の三あたりまでは「ウーン」と首をひねりながら読んでいたのですが、そこからの怒涛の伏線回収がすばらしい。さらに、終盤にはなぜか文学的な味つけまであり、評判が良いのもうなづける。イロモノだと思っていたら意外に……という感じで、ヤンキー子犬理論で読後の感触がプラスに働くのでしょう。とりわけシチュエーションを説明する手順がしっかりしているので、これだけの腕があれば今後も良い作品を書かれるのじゃないかなあと思いました。あと読み終わると、作者はドイツ文学専攻のあと現在は区役所に勤めているんじゃないかと思ってしまうわけですが、本当にそうなんでしょうか。
市川哲也『名探偵の証明』(東京創元社
引退した老名探偵のカンバックを描く鮎川哲也賞受賞作。著者インタビューによれば、映画『レスラー』が発想源にあるそうです。そのため、トリックよりも人物描写に重点が置かれています……が、肝心の人物や探偵の一人称がどこか「若者がムリして年配者視線を書いたのでは」というふうに類型的に感じられるため、「ムムーン」と唸ってしまいました。たとえば主人公に対する世間からのバッシングはイジメにも通じるものがあるし(ラストシーンの扱いはそうでなくて何でしょうか)、そういう被害者にも名探偵ならこれまで何度となく遭遇しているはずなのに、「虐めを受けたことはないが、虐という字が使われることを考えれば、どういうものかイメージできる……」などというカマトトを洩らすものでしょうか。また数年ぶりに会った妻とのSEXシーンが二度ありますが、六十代の男性はああいうSEXをするのでしょうか。どうなんでしょうか。別の場面で、引退後の主人公は妻とある一日において朝食と夕食を共にしますが、二度とも「会話に花を咲かせ」たとあります。こうした言葉遣いからは、人間観察の機微というよりも主人公のドンカンさを感じてしまわないでしょうか。やっぱり人物を描いたものの醍醐味は細部の面白さだと思うので、トリックに振らないなら振らないで、こうした細部の面白さやリアリティを大事にして頂きたいなあ……と痛感しました。このギクシャクした感じの主因を推測すると、手法そのものに根があるように思います。主題そのものは新本格のパロディなので、探偵の一人称ならオフビートに笑いをとるか、漢のロマン路線ならワトソン役の一人称にするかしたほうが、普通はうまくいくと思うのです。ところが、漢のロマン路線かつ探偵の一人称なので、結果的にパロディの対象とのあいだに批評的な距離が生まれず、ずるずるとしたナルシシズム(だから最後のブラックさは当然のもので、さして意外に感じない……)が印象に残ってしまうのでは、と睨んでいます。レスラーも探偵も、しっかりとした基礎が必要なはずですから、作者がリング上での真剣勝負を避けることなく対象をきちんと組み伏せてこそ、真の意味で「探偵小説」は「復活」するのではないか。というわけで、第二作も読んでみるつもりです。
浦賀和宏『彼女のため生まれた』(幻冬舎文庫
ドサクサで一年ほど読み止めていたものを、ようやく読了。まさかの時事ネタを著者らしい主題に料理して書ききった感じで、堪能しました。