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襤褸は着ててもロックンロール

一月に読んだもの

市川哲也『密室館殺人事件 名探偵の証明』(東京創元社
鮎川賞受賞作に続く第二作。やっぱり色々と無理が出ていた前作(老年にさしかかった男性の一人称)に比べると、青年を語り手にしていて格段に読みやすい。デスゲームの雰囲気がユルすぎる、という意見もありますが、私は気になりませんでした。ただ、前作もそうでしたけど、犯人の動機がどうも不自然だと思う。かつて作者は、映画『レスラー』を引き合いに、落ちぶれかかったレスラー=探偵小説作家である自分説を語った。それを敷衍すれば、今作が全体として発しているメッセージは、探偵小説作家とはこの程度のものであり、落ちぶれればこのようなことをやりかねず、それはさらに陳腐に失敗する、ということではないでしょうか(この不自然さは現実の作者がもし作中の小説家の立場にたった場合どうかと考えれば、誰しも感じられることと思う)。つまり、探偵小説の形式を利用しているにも関わらず、探偵小説(作家)が大事に扱われていない。……それではジャンルへの挑戦ではなく、凭れかかりではないかしら?と思ってしまうのです。
ロナルド・A・ノックス『陸橋殺人事件』(創元推理文庫
アンチ・ミステリの先駆けとして名高く、だいぶ長く棚にしまってあったのを今更読んだ。現代の濃い味付けに慣れた舌には地味に感じられるけれど、余裕のある書き振りはなかなか面白い。
はやみねかおる『僕と先輩のマジカル・ライフ』(角川文庫)
はやみねかおるの初「大人向け」作品。これも最初に入手したのは10年くらい前ではないかしら。『赤い夢の迷宮』の時にも思ったけれど、「大人向け」とされているものの大学一年生である語り手の思考はだいぶ幼いので小学生でも読めるはず。怪異が実在する世界でありながら日常の謎を解く、ということになっているけどあまり怪異設定はロジックに絡んでこず、おそらくは続編でそのあたりスケールアップする予定だったのではないか。
古野まほろ『群衆リドル』(光文社文庫
2010年刊行の雪の山荘を舞台にしたもの。デビュー時の勢いが凄かったものの私は『果実』で挫折してしまったクチで、今回「読みやすいなあ……」と思っていたら本書はもっとも読みやすい部類に入るらしい。続けて『果実』改稿版を手にしたら、冒頭からルビの洪水に圧倒された。ところで氷川透サンはこの本が出た時、自身の新作も近いというようなことを呟いていたはず。