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襤褸は着ててもロックンロール

2022年に聴いた音楽で思い出すもの

reza8823.hatenablog.com

青サンのブログを読んだら(そういえば自分も今年もいろいろ音楽を聴いたはずだからそれについてメモしておきたいな)という思いがフト湧いたので、書くことにします(こういう話題を書くのはいつ以来でしょうか)。

とはいえ私は「新譜が出たらすぐに聴く」「体系的にdiggingする」というような能動的な聴き方はしておらず、「サブスクでサジェストされたらボタンを押す」というくらいの非常に受動的な聴き方しかしておりません。

そのためでしょうか、今年は「えっ、そうだったの???」というような驚き(おそらくその作家をマジメに聴いているリスナーならとうの昔に知っているであろうような事実を長年まったく知らず今更知って吃驚した、というようないわば驚天動地の驚き)がいくつかありました。

そうした私的オドロキを中心に、今年出会ってハマっていった曲(多くは去年以前のリリース)について印象を書いていきたいと思います。

BUCK-TICKシューゲイザーBUCK-TICK「夢見る宇宙」)

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私は近年までメタル系ミュージックが苦手だったのですが、それは中学高校と熱心なHR/HMファンからよくわからないままに勧められ続けたのに一端があるのかもしれません。BUCK-TICKも勧められた一つで、アルバム毎にスタイルを変えるBUCK-TICKの当時のスタイルはサイバー系で、ハッキリいってダサいと思いました。

それが去年末に配信ライブを見て、(あれっ意外とかっこういいな)と思ったので、アルバムを何枚か聞いてみました。2012年発表の『夢見る宇宙』の特にタイトル曲には完全に吹き飛ばされました。バックがドリーム系シューゲイザー風で(リズムはちょっとポストロック風なところもある)、そこにシャンソン風というか宝塚風というか、とにかく櫻井敦司の独特の歌が乗っている。BUCK-TICKにしかできないであろう表現で、すごいと思いました。トラックリスト上ではその前の「MISS TAKE」もニューオーダー風なエレクトロ調を完全に自家薬籠中の物にしていて、アレンジ力の高さを初めて実感しました。

SQUAREPUSHERはベーシストだった(SQUAREPUSHERSQUAREPUSHER’S THEME」)

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私がSQUAREPUSHERを初めて聴いたのは2002年の『DO YOU KNOW SQUAREPUSHER』で、そこから遡って二、三枚聴いたと思いますが、熱心に追っていたわけではないので、ドリルンベースを中心とした完全にデスクトップ・ミュージックの人だと思っていました。ところが去年再発されたインディー時代のファースト『FEED ME WIRED THINGS』の評判を見ると、「元々はジャズ出身のベーシストだった」などと書いてある。そこで冒頭のこの曲を聴いたところ、これにも相当に吹き飛ばされました。それまでジャズとドリルンベースというとまったく別系統の音楽ジャンルだと思っていたわけですが、そうではないということがこれを聴くとよくわかる。生物の進化上のミッシングリンクが見つかったような興奮を覚えました。SQUAREPUSHERの音楽上の特徴は元々手引きベースと電子音の融合であり、私が聴いた時期がたまたまベースを止めていただけで、順々に追っていた人からすると「それは話が逆だろう」ということになると思いますが、私は逆に辿ったことで不思議な新鮮さを感じたのです。

そこから何枚かSQUAREPUSHERを聴き、ベースがうまいことは非常によくわかった(「世界一ベースがうまい」などと評価する人もいる)。だとするとこういう超絶技巧の人がデスクトップ・ミュージックでなくバンド形態でやったらさぞすごいことになるのではないか、という空想が湧きますが、実際にそういうコンセプトもやっていた。それがSHOBALEADER ONEです。

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しかし……皆うまい人達が集まっているなあとは思うのですが(手塚るみ子原作の漫画にもなっている)、なんとなく期待を超えないというか、期待を裏切らないということが逆に物足りないような……。難しい心理です。

SQUAREPUSHERのバンド形態では初期のアシッドジャズ風の『MUSIC IS ROTTED ONE NOTE』もよかったんですが、電子音とバンド音を完璧に融合した『ULTRAVISITOR』(特に「CIRCLEWAVE」〜「TETRA SYNC」の流れ)は最高傑作に挙げる人も多いだけにさすがにすばらしかった。ところが「超絶技巧」をウリにした一人バンド『JUST A SOUVENIR』や、前述の『SHOBALEADER ONE : D'DEMONSTRATOR』になると、チープさのほうが際立ってしまう……(バンドってそういうものなのかなあ)というギモンが浮かぶのです。「超絶技巧」ということが逆に枷になっているのではないか。そんな気さえします。

③なぜジョン・フルシアンテのギターを聴くとすぐにジョンのギターだとわかるのか(RED HOT CHILI PEPPERS「EDDIE」)

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レッチリはギターとベースとドラムとボーカルだけという超シンプルな編成でよくあれだけオリジナリティあふるる音楽を長らく作り続けることができるな、と思いますが、ある朝、いつものようにヒゲを剃りながらなんとなくスマホで音楽を流していたら、この曲が始まって驚きました。特に終盤一分半に及ぶギターソロはすごい。ジョンにしか出せない音色であり、それが自分のスマホを通して早朝の洗面台をビリビリ震わせるのを見て、私は音楽とはデータではない、ヤッパリ振動だ、と思いました(そういうことを真に思ったのはクリスタル・キングの「大都会」以来です)。

何年か前、ジョンがバンドに復帰する以前、ソロ活動ももう辞めて余生は自分のためだけに演奏する、というような宣言をしたことがあった。その時は(本当にそんなことができるのかなあ)と思いましたが、実際に復活してその抑えようのないクリエイティビティの奔流(一人だけでなくバンド全体のエネルギーによる奔流)を耳にすると、何か震撼とするものを感じます。

そしてSQUAREPUSHERによるバンド活動との違いをアレコレと思い浮かべます。

ビリー・コーガンNEW ORDERファンだった(SMASHING PUMPKINS「THE COLOUR OF LOVE」)

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2000年に一度解散、2006年にボーカルとドラムで再始動し10年以上経過したスマッシング・パンプキンズにギターのジェームズ・イハが2018年に復帰していたのを知ったのは今年のことです。しかしオリジナル・メンバーの復帰で悩みの種になるのはその不在の間を支えてくれていたメンバーの処遇です。ジョン・フルシアンテの復帰にともないレッチリからジョシュ・クリングホッファーは辞めることになりましたが、スマパンからジェフ・シュローダーは解雇されずそのまま残り、つまりバンド内にギターが(ボーカルのビリー含め)三人いることになりました。これまであまり聴いていなかった再始動後のアルバムを聴いたところ、ギターが三人いるとは思えないどこか持て余しているような印象を受けましたが、イハ復活後のこのアルバムの冒頭曲は、NEW ORDER風な80年代な感じで、意外に思ったところ、元々ビリー・コーガンNEW ORDER好きで、アルバムに客演したりツアーにサポートメンバーとして参加したこともある……という、長年のリスナーには有名な事実を今更知ることになり、非常にショックを受けました。

私はスマッシング・パンプキンズで最も勢いにのった曲を選ぶと、「Jellybelly」だと思います。作曲といい演奏といい、グループ全体のフィーリングがうまく噛み合っていないと、こういう奇跡のような曲を生み出すことはできないのではないでしょうか。

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⑤リズムによる騙し絵の探求(MESHUGGAH「PHANTOMS」)

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メシュガーはメトリック・モジュレーションというワザ(一見複雑なリズムだがトータルではポピュラーな四拍に収まる)のパイオニア兼探求者として知られています。新譜が出るとリスナーは「今度はどういうリズムになっているんだろう」とソワソワする。つまり本格ミステリのように、「変拍子ではない」というフェアネスを前提としながらその複雑怪奇なリズムを聴き込んで解析しようとする(ピアニストのティグラン・ハマシアンの例)。

私もメシュガーを聴き込むことで、いろいろな音楽のリズムが取りやすくなったように思います。「クイーンや山沢晴雄麻耶雄嵩を読むとたいていのミステリのロジックは薄味に感じる」みたいなものでしょうか。たとえばCINEMA STAFFPEOPLE IN THE BOXには変拍子もありますがそうでないものもあり、一見複雑でも(あっこれは四拍だな)などと見抜けるようになりました(CINEMA STAFF「熱源」など)。

そのぶんメシュガーの曲を聴くというのはなかなかハードで、また近作はその複雑さに拍車がかかってもいたため一曲毎の聴取カロリーが高まっていたのですが、今回のアルバムはどこかスッと風通しがいいような感じがあり、特にこの四曲目は横ノリ?のような印象を醸し出していて、新鮮な印象を受けました。

グラインドコアは歌っていい(SWARRRM「ここは悩む場所じゃない」)

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本格ミステリがロジカルさを追求すると時に「小説としての味わいに乏しい」といわれることがあるように、メシュガーなどのテクニックを追求するメタルのグループを聴いていて唯一物足りないのは、グロウル(唸り声)中心でメロディが乏しいことです。これは仕方がないことだと長らく思っていました。以前DEAFHEAVENでブラックゲイズを知り、特にその「DREAM HOUSE」は暗雲にパーと陽光の刺すようなイメージで、(ブラックメタルが明るくてもいいんだ!!!)という衝撃を受けたのですが、SWARRRMはこの曲はそれと同じくらいの、つまり(ブラストビートのグラインドコアで歌ってもいいんだ!!!)というインパクトを受けました。

私に「ここは悩む場所じゃない」が「DREAM HOUSE」くらい新鮮だったのは、ある解放(音楽)と思われたものにも制約があり、それを可視化しながら軽々とクリアしていった(ように見える)ためだと思いますが、最後に空間的な広がりを持つブラックゲイズ特有のトレモロギターのジャラジャラとした鳴りととともに「夢をみてもいい そう 思わないか そう 思えないか」という呟きがくりかえされるのが痺れるほどかっこうイイナ、と思います。

ヴィジュアル系の音楽的源流はDEAD ENDだった(DEAD END「SERAFINE」)

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私が小学生だった1990年代はいわゆるヴィジュアル系が全盛で、周囲の人間もみなよく聴いていました。というか、普通に生活していたら特に意識せずとも自然と耳に入ってきました。私はその中でもL'Arc~en~Cielが好きだったのですが、ヴィジュアル系とひとくちにいっても本人たちはそうカテゴライズされたくない、とか、音楽的な評価(あんなのは歌謡曲であってロックじゃない、というような評価)、とか、いろいろ複雑な問題があることも次第にわかるようになりました。とはいえ熱心に聴いていたわけではないので、DEAD ENDという伝説的なグループがいることを知ったのはつい最近のことです。いわく、インディー時代のアルバムはXに超されるまで売上枚数一位だった。いわく、L'Arc~en~Cielも黒夢LUNA SEAJanne Da Arcも直接的な影響源はDEAD ENDであり、トリビュート・アルバムでは参加するメンバーの調整が難しかった。

そこで聴いてみて、驚きました。70〜80年代のハードロックと歌謡曲と、のちのヴィジュアル系的なものとが、渾然一体となっていたからです。たとえば「EMBRYO BURNING」の歌い方は、うまいけどわざとあまり丁寧じゃなくしている(特にフレーズの終わりを)というか、ブッキラボーな感じで、ひとことでいえば昭和っぽい(今こんな歌い方をする歌手はいないでしょう)。ところが「I WANT YOUR LOVE」を聴くと、これはのちにHYDEが発展させる歌い方で、ところどころはもう完全にラルクHYDEはどれだけ好きなんだよ、と思わされるわけですが、そこからラルクを(『DUNE』から)聴くと、(HYDEはこういう声でこういうメロディを歌いたかったんだなあ)というその研究ぶり、発展ぶりの凄さを思い知るのです。

たぶん私がDEAD ENDを知らなかったのは、ボーカルのMORRIEが90年代にNY生活をしていて日本での露出があまりなかったこともあると思うのですが、活動再開後の音楽の充実ぶりにはビックリします。たとえば「春狂え」などは、もともとDEAD END時代も初期と後期で歌い方が異なりましたが、ファルセットの使い方などはほとんど別人。3分50秒あたりからのフュージョン展開にも(こういう曲でこういう展開を入れるか!)と唸らされます。

MORRIEと清春との対談では清春MORRIE好きぶりが伺えるのですが(この対談は本当に面白い)、清春の「僕にとってはMORRIEさんですけど、誰かをずっと好きだって言えるのは、その人がずっとカッコいいからじゃないですか」というところを読むと、(尊敬できる人がリアルにいるということは羨ましいことだなあ)という気持ちになります。またMORRIEの「時間をかけて、色々なことを経験していくと、魂が熟していく。それがもう、楽しくてしょうがないんですよね」という言葉にも、名声も実力もすでにある人が50代を超えてさらに探究を重ねていこうとするポジティヴさがあって、(いいなあ)と勇気づけられました。

CALMはかなりSTEVE TIBBETTSのフレーズを取り込んでいた(STEVE TIBBETS「CLIMBING」)

CALMという人のアルバムを20年以上聴いています。なんというか、大雑把にいえばチルアウト・ミュージックなのかもしれませんが、リラクゼーション感が強く、家で聴いていると「何そのヒーリング・ミュージック」といわれますが、公式サイトをウォッチしているといろいろな音楽を教わることが多いのです。今年MARK ANDERSON『TIME FISH』というアルバムがCALMプロデュースで再発され、その関連でSTEVE TIBBETSという人を知ったのですが、聴いていると(初めて聴くのになんかどこかで聴いたことあるな)と思うことがちょくちょくありました。『SAFE JOURNEY』収録の「CLIMBING」でそれは決定的になり、つまりそれはCALMの曲でフレーズが引用されていたからなんですね。たとえば「CLIMBING」と「DREAMS OF SKELETON TREES」を聴き比べてみてください。「CLIMBING」の冒頭フレーズが素材として取り込まれていることが誰でもすぐわかります。私は長年「DREAMS〜」に慣れていたので、元曲を聴くとなんとなく物足りなさを覚えてしまう。それでもSTEVE TIBBETSの一種ストイックな多弦ギターの世界には非常に惹かれるものがあります(特に初期のエレキギターを使ったもの)。

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きりよく十番目まで挙げようかと思いましたが、だんだん体力が削られてきたのでこのへんまでにし、後は適当に挙げます。

しかしまとめてみて思うのは、まったく聴いたことのないものよりもミッシングリンク的なほうをずいぶん面白がっていたんだな、ということです。

以前はひたすら新しいものを探していたような気がしますが、20年ほど聴いているとそういうモードになることもある、ということなのでしょうか。

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WHATEVER THE WEATHER「25°C」:どんな天候にも対応するという意気込みで作られたすばらしいアルバムで、アルバムトータルで一番聴いていたのはこれだと思いますが、ビートが入っていない曲のほうが好きだった。

SWEET TRIP「ACTING」:早朝に仕事していたらいきなりこの曲が流れてきてビックリした。(なんだ???)と思って検索したらつい先日再解散(再結成後の解散)したという。

julie「LOCHNESS」:DRY CLEANING以上にもろにソニック・ユース。それを独特のアートワークで覆っている。

AL-KAMAR「shakunage no genei」:私はボーカロイドは通ってこなかったのですが初めていいと思いました。

FALL THERAPY「WHATEVER REMAINS YOUR COMFORT」:耳に残るピアノフレーズが延々くりかえされるような印象があり、皿洗い中にそればかり聴いていたような気がする。さっき聴き直したところ、実はそんなにフレーズはくりかえされていなかった。

GIGI「ABAY」:ボーカリストのアルバムなのにほとんど歌っていない不思議なアルバムだな、と思っていたら元盤をリミックスしたダブ・アルバムだった。

GONG GONG GONG「THE LAST NOTE」:ギターとベース二人組によるミニマルガレージ。

SCREAMING HEADLESS TORSOS「FREE MAN」:特にZAZEN BOYSのギターの引き方はこういうところから来ているのかと思った。

WORK DRUGS「SLOW FADE」:それなりにクオリティの高いシティポップを毎年作り続けているのに聴いていてほとんど記憶に残らない不思議な人達。