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襤褸は着ててもロックンロール

2012-01-01から1年間の記事一覧

麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』を読んだ

【『メルカトルかく語りき』の真相に触れていますので、未読の方はご注意ください】麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』(講談社ノベルス、2011)を先日読んだ。発売時から話題になっていたので、事前情報はけっこう耳にしていたけど、実際に読むと「なるほど…

【記録シリーズ9】続々々・レゴブロック的走り書き

また話がズレた。今回いいたいのは結局、「交換可能性」に関してだ。ある要素や素材の歴史性や個別具体性を捨象していくと、ツルツルしたレゴブロックのようなものとして扱えるようになり、それを確固たる形式に代入すれば何かがガラガラポンと出てくる。そ…

【記録シリーズ8】続々・レゴブロック的走り書き

以前何かの文庫解説で、「推理小説はまず、〈推理〉小説である前に、推理〈小説〉であるべきだ」というフレーズが紹介されていた(懐かしい……)。うなずけるところもないではない。ただのパズルに留まるな、ということが言いたいのだろう。しかしそれに「人…

【記録シリーズ7】続・レゴブロック的走り書き

物心ついた時には、すでにその形式がそれなりの時間の厚みとともに存在した。どうやら自分のやって来る前には、ここを通っていった先達が数えきれぬほどいたらしいのだ……。 ほとんどの人間はそこから何かを始める。先人の実験例や、形式に対する世間の評価は…

【記録シリーズ6】レゴブロック的走り書き

先日、学生時代に書いた短篇(ミステリ)をパラパラめくっていたら、当時の自分の見えなかったものに思い当たった。その頃の自分は、ミステリを書くというのは、思いついたあるアイデア(たとえばトリックやシチュエーションやストーリー)をただ展開させる…

【記録シリーズ5】駄洒落について

「健全なユーモア精神と幼稚な駄洒落とを区別せよ」 あるエッセイでこんな一節を読んで、ふと疑問を覚えたんだ。なぜなら、ぼくの考える駄洒落はそういうものじゃなかったから。ぼくは駄洒落が好きだ。自分でもよく言う。ネットにも書くし、周りの人びとにだ…

【記録シリーズ4】ズッキーニ

丸々としたズッキーニを見るといつも、 「それはキュウリじゃねえ」 とチバユウスケふうに歌う男の声がどこからともなく聞こえてくる。

【記録シリーズ3】盲目の作曲家

「盲目の作曲家」というフレーズがふいに思い浮かぶが、自分は盲目について、また作曲家についてもあいにく知るところが少ない。

【記録シリーズ2】二つの影

夜、高架橋の下を歩いていると、私の体が目の前の薄暗い地面に二つの影を投げているのに気づいた。柱側に連なる左右の電燈から、つまり二つの角度から背を照らされているためだろう。これが三つの角度なら三つの、四つの角度なら四つの影が原理的に考えてで…

【記録シリーズ1】青い薔薇

更新頻度を上げるために、新シリーズを始める。仮に「記録シリーズ」と題を借用する。 この一年ほど、何か思いついたらTwitterにて連投することが多かったため、あとで振り返ろうと思ってもなかなか検索しづらい……ということが起こりがちだった。そこで、短…

今後の予定

もうちょっと更新頻度を上げて、言いっぱなしになっているものを実現したいと思ったので、以下構想している今後の予定を書きつけます。 ・いったいどれくらいの人の記憶にあるかわかりませんが、もう半年ほど途絶えている「つらつらと」シリーズは、自分の関…

『子どもの王様』讃

殊能将之は作中の博識や「ミステリ」ジャンルに対する批評的なスタンスおよびトリック、俗なユーモアなどでいわゆる「クセモノ作家」としてその読者には受けとられていると思うが、〈かつて子どもだったあなたと少年少女のための――〉と銘打たれるジュブナイ…

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その4)

(――書き直し予定地――)

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その3)

(前回の続き)『チラシ』内でも監視の目は強い。経営者ブーテンベルクは、植字工員には「動じない心が必要だ」などといって、抜き打ちで語りかけてくる。この声に動揺しては罰せられる。つまり機械のように働くことが求められている。さらにブーテンベルク…

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その2)

単行本 単行本版を読んでみると、文庫版にはなかった記述がいろいろ見られたため、「改稿のさい、かなり削ったのでは?」と思った。そこで、3バージョンの文字数を「1行あたりの字数×1頁あたりの行数(×段組数)×頁数÷400字(=原稿用紙換算)」で概算な…

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その1)

先日、青木淳悟のデビュー作「四十日と四十夜のメルヘン」で読書会を行ったというKUSFA http://blog.kusfa.jp/article/270788369.htmlの方から、この作品どう読みました、と聞かれて「ウッ」とつまった。単行本の『四十日と四十夜のメルヘン』を6年くらい前…

動線の設計

「文体」というのは非常に大きなテーマで、日頃、意識することも多々ある。 「文体とはいったい何だろうか」ということを考えた時、いくつかの文章が思い浮かぶ。それについて少しまとめてみたい。 ※ まず「文体とはいったい何だろうか」という疑問を提出す…

「未読」の「恥ずかしさ」、および地図について

いま手元に原本がないからウロオボエで書くけれど、ギルバート・アデアの評論集『ポストモダニストは二度ベルを鳴らす』に、ゴンチャロフ『オブローモフ』およびその周辺にある言説(たとえばドブロリューボフいうところの「オブローモフ主義」)に触れて、…

『Poltergeist』についての雑感

大学の後輩達が作った、関西ミステリ連合有志『Poltergeist』という同人誌を先月の文学フリマで購入し、さきほど読み終わった。現役の学生七人が結集して製作したもので、最近はミステリ研究会員の間にも書きたい人が多いらしい。 ミステリ研究会というのは…

フリーハンドドキュメント

「人力たんぶらー」という案を帰り道に考える(別にたんぶらーでなくてもいいが)。一日のうちに読んだり考えたり思い出したりしたことを心に浮かぶままに引用元・発想元を示さずにカットアップのようにつないでいく。太い脈絡のない、ぶつ切りのカタマリが…

つらつらと10:「驚きの減衰」について

エラリー・クイーンの長篇を読みながら。>と書いてから四ヶ月、まだまだ全くクイーンについて書けそうにない。 というわけで、また別の話題にしよう。 今日たまたま、荻原魚雷氏のブログ文壇高円寺の最新エントリと、雑誌「メフィスト」最新号に掲載された殊…

続々々々・からだ、あったまりましたか――エリック・マコーマックの2長編

【※エリック・マコーマックの『パラダイス・モーテル』および『ミステリウム』の結末に触れていますので、未読の方はご注意ください】 『パラダイス・モーテル』の語り手エズラ・スティーブンソンの設定は、かなりエリック・マコーマック自身を思わせる。例…

続々々・からだ、あったまりましたか――エリック・マコーマックの2長編

【※エリック・マコーマックの『パラダイス・モーテル』および『ミステリウム』の結末に触れていますので、未読の方はご注意ください】 というわけで『パラダイス・モーテル』を再読した。他の二冊でマコーマックの世界に慣れてきたのか、前回と違って楽しく…

一年後の、いま

大地震から一年が経つ。早いようなそうでないような、不思議な感覚がする。 私は東京に住んでいて、被害はほとんど無かったし、被災地にも行っていないし、身近な被災者もいないので、報道を見ているとどことなくバーチャルに感じられる時がある。もちろん、…

伝記のように

マコーマックの『パラダイス・モーテル』を再読したはいいものの、なんだかまだよくわからないところ多い。まあ、初読時よりはいろいろとはっきりしてきたけれども。 それはいずれ書くとして、梶村啓二のデビュー作『野いばら』を読んだ。 『パラダイス・モ…

続々・からだ、あったまりましたか――エリック・マコーマックの2長編

【エリック・マコーマックの話題の続きです】読書会から一か月以上が経ったのでいい加減さっさと更新し終えたかったのだが、『隠し部屋を査察して』(東京創元社2000)に思いの外時間がかかってしまった。しかし、素晴らしい短篇集だった。2長篇を差し置い…

一休み

マコーマックの『パラダイス・モーテル』についてはそのうち。今日は少し違う話題を。 ※ もう一週間近くも雪が解け残っている。このところ連日、平均気温が零度近いからだ。昼の間に蒸発しきらないまま、夜を迎えてまた硬くなる。それを繰り返すと、粒が大き…

続・からだ、あったまりましたか――エリック・マコーマックの2長編

【※エリック・マコーマックの『パラダイス・モーテル』および『ミステリウム』の結末に触れていますので、未読の方はご注意ください】先に『ミステリウム』について。実はこの作品にも、「信頼できない語り手」は登場する。もちろん、「第一部」の大半を占め…

からだ、あったまりましたか――エリック・マコーマックの2長編

【※エリック・マコーマックの『パラダイス・モーテル』および『ミステリウム』の結末に触れていますので、未読の方はご注意ください】この年末年始に、エリック・マコーマックの邦訳されている二つの長編、つまり『パラダイス・モーテル』(創元ライブラリ20…

新年のご挨拶

あけましておめでとうございます。今年もどうか一年、よろしくお願いします。 昨年は年の始め頃に書店で詩のコーナーに迷い込んで、散文に疲れていたせいもあって、「ああ、詩集はいいよな、余白がたっぷりしていてな」などと勝手なことを思い(その後、一人…