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襤褸は着ててもロックンロール

澤村伊智『恐怖小説キリカ』講談社文庫版に寄せたレビューが公開されました。

澤村伊智氏の『恐怖小説キリカ』の講談社文庫版に寄せた(というか、「鮎井郁介」を騙って投稿した)レビューが公開されました。詳細は下記を御覧ください。 http://kodanshabunko.com/kirika/ これは小説の内容と連動した企画なので、実際に読んでみないと…

『立ち読み会会報誌 第一号(改訂再版)』のBOOTH通販情報

既刊『立ち読み込み会報誌 第一号(改訂再版)』をBOOTHで通販することにしました。 まだお持ちでなくご希望の方は、何卒よろしくお願いいたします。【目次】 序 立ち読み宣言 巻頭インタビュー 磯達雄氏に聞く 第〇部 二〇一三年三月三十日~四月三日 第一…

青山文平『半席』

青山文平『半席』(新潮社、2016)。私はふだんあまり時代小説は読まなくて、この著者も初めてです。この本は出た当初から「ワイダニットの秀作」の呼び声高く、そのうちいずれと思ううちもう文庫化されてしまったので、それを契機に読んでみました。 時代は…

急に早川書房の「異色作家短篇集」を読み直すことになったので、こちらに備忘録を書いておくことにする。 以下は初刊時の作家17人の生没年月日をコピペして年長順に並べ直したもの。 * ジェイムズ・サーバー(James Thurber 1894年12月8日 - 1961年11月2日…

ゴーストライター、ゴーストシンガー

たまにはベストセラーでも立ち読みして現世に対する怒りの力を取り戻すかと思い、書店の自己啓発コーナーで堀江貴文の『多動力』という本をパラパラめくっていたら、フシギな記述に遭遇した。 この本の割と最初の方で、堀江は自分の執筆方法について解説して…

ウィリアム・ギャディス『カーペンターズ・ゴシック』

ウィリアム・ギャディス『カーペンターズ・ゴシック』(木原善彦訳、本の友社、2000)。この小説の邦訳書がほしいなあと思いながら数年探してもまったく手に入らないので、しょうがないから図書館で借りて読んだ。といっても、どういう内容だか事前には全然…

ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』

ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』(安藤元雄訳、白水uブックス、1989)。上京した夜に初めて買った本だから、九年近く前か。裏の見返しに「500円」というシールが貼ってあるが、この古書店ももうない。グラック28歳のデビュー作で、1938年刊。は…

il miglior fabbro

「私にまさる妙手」は寿岳文章訳の『神曲』だよ、と昨日教えていただいたので、ついでに調べてみました。 「il miglior fabbro」とはダンテ『神曲』煉獄編第26歌(117行目)の語句だが、これはどういう意味か。作中でダンテが自身よりおよそ一世紀前に活躍し…

中村光夫『藝術の幻』

蔵書整理のために本棚をいじっていたら以前集めた中村光夫の本がいくつか出てきた。中村光夫という人の著作は私は金井美恵子のエッセイから入ったのだが、これまでは読んでも意識が言葉の表面をつるつると滑ってゆく感じで、なかなかとっかかりを見つけるこ…

ローレンス・スーチン編『フィリップ・K・ディックのすべて』

フィリップ・K・ディック著/ローレンス・スーチン編『フィリップ・K・ディックのすべて ノンフィクション集成』(飯田隆昭訳、ジャストシステム、1996)を読んだ。微妙なタイトルだが原題はThe Shifting Realities of Philip K. Dick: Selected Literary an…

ある方に勧められて清水義範『ドン・キホーテの末裔』。著者自身を思わせる作家が、『ドン・キホーテ』をモチーフにした小説を書くというメタフィクションで、作中作の他にも講演、エッセイ、小説論などいろいろな文体で構成される。「現代においてパロディ…

カズオ・イシグロの第二作『浮世の画家』(An Artist of the Floating World、1986年/ハヤカワepi文庫)を読んだ。イシグロ作品を読んだのは『夜想曲集』以来二つ目。舞台は1948年から1950年にかけての日本。語り手は大戦中に戦意高揚絵画を描いてかなりの…

石川美子『ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家』中公新書、2015。 バルト本を何冊も訳してきた人物が、200ページ強の分量で彼の人生をザッと駆け抜ける評伝で、非常にクリヤーな書き方で面白くアッという間に読んでしまう。 権力的であることを一…

四月に読んだもの

よしもとばなな『白河夜船』新潮文庫 ひとに勧められて十年以上ぶりに著者の小説を読んだら、太宰治のようにすーっと染み込んでくる語りで、実際四半世紀前の作品といってもニート生活に漂うバブリー感のほかは古びた感じがしない。新しいあとがきもパワーフ…

矢部嵩は天才である。(5)――『〔少女庭国〕』

1 卒業式の日、女生徒たちが会場へ向かう長い廊下を歩いていると、ふいに見知らぬ部屋で一人眠っていた自分に気がつく。壁には何やら指令書のようなものが貼り付けられており、「死亡した卒業生」なる不穏な言葉が見受けられる。どうやら、自分たちはここに…

矢部嵩は天才である。(4)――『魔女の子供はやってこない』

四年ぶりの長篇 第三作『魔女の子供はやってこない』(角川ホラー文庫、2013)は、前作『保健室登校』(同、2009)からちょうど四年ぶりに刊行されました。技巧と物語が高度に洗練されたこの小説は、おそらく矢部嵩的世界の現時点での頂点を極める作品で、私…

矢部嵩は天才である。(3)――『保健室登校』

冒頭の描写から 矢部嵩的世界においては、殺人や人体損壊などの残虐かつグロテスクな行為が登場人物にアッサリ受け入れられる場面が少なくない。それを記述する場合、われわれの「日常」において「平易な文章」として通じるものとは異なる書き方が必要なのは…

三月に読んだもの

坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) 十年ほど前から散々噂を聞いていたが、確かにキュンキュンする個所多し。ところで、各編の扉裏のポエムは良いとしても、末尾に白ページが2ページ続いたりするのは、いったいなぜなのだろう? 麻耶雄嵩『名探偵 木更津悠…

矢部嵩は天才である。(2)

(承前) その文体 私が矢部嵩botの抜き出した文章に眼を洗われる心地がしたのは、その言葉が磨きぬかれ、紋切り型を脱臼させる独特のユーモアを持っているように感じられたからだ。それは『紗央里ちゃんの家』で感じたのとは異なるものと思った。 ところで…

矢部嵩は天才である。(1)

はじめに 矢部嵩は現代における真の天才であり、その小説は世界文学である。 以上。 ※ とだけ書いて皆様がフムフムもっとも僕も私もそう思うと大賛同の輪が世界中に広がれば万々歳なのだが、残念ながらまだまだ御納得いただけない方もおそらく多いことと思料…

二月に読んだもの

もう今年も六分の一が過ぎたのか。 古野まほろ『絶海ジェイル Kの悲劇’94』(光文社文庫) かつて北山猛邦が「ボールペン一本でも物理トリックに利用することができる」というようなことをインタビューで答えていたのを読んだとき私は感動した。今作の困難…

一月に読んだもの

市川哲也『密室館殺人事件 名探偵の証明』(東京創元社) 鮎川賞受賞作に続く第二作。やっぱり色々と無理が出ていた前作(老年にさしかかった男性の一人称)に比べると、青年を語り手にしていて格段に読みやすい。デスゲームの雰囲気がユルすぎる、という意…

十二月に読んだもの

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 小島信夫『月光・暮坂 小島信夫後期作品集』(講談社文芸文庫) 死去直前まで本人も携わっていた短編集で、「後期」といっても九十年代までの作品を収録。『対談・文学と人生』の話から書くこ…

十一月に読んだもの

周木律『伽藍堂の殺人』(講談社ノベルス) 結局このシリーズは、強引に続行が決まった二作目以外は、いろいろ不自然に感じるところを括弧に入れれば、なかなか楽しめるのではないかと思い始めてきました。 早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』(講談社ノベルス) 四…

十月に読んだもの

野崎まど『舞面真面とお面の女』『小説家の作り方』『パーフェクトフレンド』(メディアワークス文庫) だんだん面白くなっていく感じで、特に『パーフェクトフレンド』は傑作だと思いました。 小島信夫『小説の楽しみ』『書簡小説論』『演劇の一場面』(水…

『Before mercy snow 田波正原稿集』を読む

1 去年のうちに入手していたものの、レビューされている作品になじみが薄い(主にSF)ことからチビチビと読んでは残していた『Before mercy snow 田波正原稿集』(名古屋大学SF研究会、2013)を、ようやく頭から一気に通読した。収録原稿は名大SF研の機関誌…

続・蓮實重彦のフローベール、「ハサミ男の秘密の日記」

蓮實重彦『『ボヴァリー夫人』論』のアナウンス。「新潮」2014年1月号に序盤が先行掲載、同年春に筑摩書房より刊行、との由。 しかしこう書いた一週間後に続報が出るというのは、なんだか自分が超能力でも使ったかのような気がしてくる(勘違い)。 ※ またま…

Before mercy snow

昨日ご紹介した『Before mercy snow』は今日の文フリで、開場30分も経たないうちに売り切れたらしい。 私は行けなかったので、後日の通信販売を待つ予定だけれど、入手した方の反応を見ているといろいろ待ち遠しい。 ※ ところで今日T「殊能センセーの本名を…

ピーター・ディキンスン『生ける屍』を読んだ

今年六月にちくま文庫から復刊されたピーター・ディキンスン『生ける屍』(神鳥統夫)を読んだ。この小説は、読者によっていろいろなふうに読まれているらしい。たとえばAmazon当該ページのレビュー(2013年8月27日現在は8つ)から言葉を抜き出してみると、…

「四十日と四十夜のメルヘン」をめぐる四つの感想(その3)

(前回の続き)『チラシ』内でも監視の目は強い。経営者ブーテンベルクは、植字工員には「動じない心が必要だ」などといって、抜き打ちで語りかけてくる。この声に動揺しては罰せられる。つまり機械のように働くことが求められている。さらにブーテンベルク…