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襤褸は着ててもロックンロール

ストレンジ・フィクションズ臨時増刊への寄稿

最近このブログではストレンジ・フィクションズへの寄稿の告知しかしていませんがまた寄稿したので告知します。

ストレンジ・フィクションズ臨時増刊『ダブリナーズ 留年百合アンソロジー

初売りは5月19日の東京文学フリマ38です。
詳細は以下のリンク先ご覧ください。

https://booth.pm/ja/items/5701387

https://note.com/strange_fics/n/nc3f0b54c88c2

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以下は収録作の紹介と感想です。

①笹幡みなみ「全然そうは見えません」
ストレンジ・フィクションズは同人メンバーでも落としてしまう人もいるのですが、笹幡さんはなんとゲストにもかかわらずこの臨増企画には皆勤賞。で、前二号ではどちらも飛び道具的な話だったのですが、今回はなんと正統派。テーマへの堂々たる取り組みぶりに驚きました。まさに巻頭を飾るにふさわしい一篇です。あと細かい点でいえば私も最近好きなテクニックなのですが視点人物のアクションを会話相手のリアクション台詞だけで表現する箇所があり、やっぱりいいなあと思いました(探してみてください)。

②紙月真魚「海へ棄てに」
臨増第一号『夜になっても遊びつづけろ よふかし百合アンソロジー』をお読みの方は一読、その巻頭の織戸久貴「綺麗なものを閉じ込めて、あの湖に沈めたの」を想起されることでしょう。つまり水辺に何かを捨てに行くロングウォーク系の話という意味で。すると水辺にたどり着いてからどうするか、というのが解決の仕方、というか、作者のフェティッシュの現れぶりになってくるわけですが、そのあたりをぜひ読み比べてみてください。

③鷲羽巧「still」
横書きの断章と対になるスケッチで構成された一篇です。見た瞬間、(これでも小説になるのか)という驚き。贅言を費やさずとも最小の字数で(小説になる)という有無をいわさぬ説得力。今回のアイデア賞ものではないでしょうか。前回の笹幡さんもそうでしたが一読生涯忘れえない鮮明なアイデアを発明できるというのはやっぱりすごいことですね。

④茎ひとみ「切断された言葉」
前回「スマホの読み上げアプリ」という卓抜なギミックで強烈な印象を残した茎さんがまたしてもやってくれました。今回は……です。地の文でもセリフでも文字でもない(作中世界では)ゴツゴツしたモノの異様な存在感たるや。茎さんはホラー志向の方なのでオチがだいたい似通ってきてしまうという憾みがこれまでありましたがギミックなどを用いることによってオチに至るまでのバリエーションの幅が出てきたのではないかという気がします。あと茎さんはネットでもっと何か創作が読めるようにすると読者が増えると思います。

⑤小野繙「ウニは育つのに五年かかる」
小野さんは初参加です。最初の「オホォ!」で(「オホォ!」かあ……)と一瞬思いましたが後でそれはオホーツク海のオホーだったことがわかり吃驚しました。それから「絶対東大ッ!」で(この話はいったいどこに行くんだ……)と早くも途方に暮れ(唐十郎の演劇『泥人魚』を見て同様のことを思ったことがあるのを思い出しました)、青春模様になると思ったらいきなりミステリになる。正直、アンソロジー中で一番しっかりミステリしているので、嫉妬で気が狂いそうです。実は場面分けに六本線アステリスクではなく五本線アステリスクを使ってはいかが(ただしそこだけフォントを変える必要がある)かと校正作業中に提案しようとしましたがなんとなくヒトデみたいに見えてきたので提案するのをやめたことを告白しておきます。

⑥murashit「不可侵条約」
まず、こういう書き方で読者に伝える・伝わる、という度胸がすごい。濃度を薄めるだけのゴチャゴチャした説明は不要だということ、読者を信頼するということ、その肝の据わり方が独特の世界感触を作り上げているので、不安の裏返しでペラペラと余分な贅肉を増やしがちな自分としてはこれはぜひ見習いたいなあと思いました。あと会話部分にしだいに横田創味が出てくるのはやっぱり演劇だからでしょうか。

⑦孔田多紀「パンケーキの重ね方。」
自作です。今回、強い後悔が二つあり、まず『夜になっても遊びつづけろ』以来の続き物にしてしまったということで、最初は自分は賑やかしくらいに思っていたので軽く考えていたのですが、積み重なる提出原稿に目を通すうち力作が多いのに焦りだし、やっぱり独立したものを出せばよかったと思った時には後の祭り。次こそ単独優勝を目指したいと思ったものでした(さらに続きを書くとしたらウェブ上にするはず)。もう一つ、終盤である一つのギミックを使ってみたかったので、それを組み込むために全体のバランスは致命的なまでに崩れました。(そんな奴おらんやろ)と思うと自分でも読み返すのがツライのであまり校正に目を通せなかったのですが(だから変な記述がちょくちょくある)でもやってみたかったのでやってしまいました。もっとうまいまとめ方はなかったのだろうか。

⑧織戸久貴「春にはぐれる」
以前織戸さんに新人賞に投稿する際はコメディベースよりシリアスベースの方が受けがいいと思いますよ(その方が出版社は読者にアプローチしやすいから)とヨコシマなアドバイス罪を犯したことがあるのですがそのことが私自身長らくそれでよかったのだろうかと頭の隅に引っかかっていて今回また色々と考えさせられました。たとえば今号に寄稿された話はいずれもほぼユーモアとエモーションが各人の塩梅で配分されているので、コメディともシリアスともいいがたい(しかしケア系の動因が根っこにあるとするとやっぱりシリアスベースかもしれない)、したがってコメディだから即受けにくいとはいえない、ただパロディネタといわゆる「お約束」ネタはなるべく避けた方がよいのではないか、その方が作者自身の精神衛生上もよいのではないだろうか(私もパロディネタを一箇所入れてしまったのがなんとなく心残りになっています)、云々。私は織戸さんの作風だとコメディ35:シリアス65くらいの割合の方が好きなので、今作はそれぐらいのジャストな感じを受けました(計算が間違ってたらすみません)。それはともかくこの短篇の特長はなんと作品世界全体にワンダーを持ち込むことで留年=遅れるという捉え方が無効化してしまう。これはさすがにトリの風格だなと思いました(空間としての狭い京都感もすごい出ている)。私もそろそろトリの風格を会得したいのですがどうすれば会得できるのでしょうか。

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以上八篇です。正直、今回が参加者として一番凹みました。読まれる方におかれてはそれだけ力作揃いということなのでご期待ください。

文章技術的な部分で自分の弱点だなあと感じたのは台詞と地の文がベターッとつきすぎることで、これはあんまりつきすぎてはいけない、想像力や情緒を受け入れられる行間を作ったまま持続的に記述を伸ばしていく、というのがたぶん、こういう小説における文章のうまさなのでしょう。今度からはそこを努力したいものです。(たとえばディスカッション部分における台詞と地の文の密着の度合いを収録作それぞれに読み比べてみると各人の特徴がわかるのではないかと思います)

あと締切後に間に合わなかった人のぶんの原稿も救済措置(追加パック)があるそうなので、まだまだ終わらないみたいです。どんどんメタボリック化していきますね。このままではストフィクは百合アンソロジーサークルになってしまう。それはともかく追加原稿にもご注目ください。
よろしくお願いします。