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襤褸は着ててもロックンロール

ミステリ

『紫藤はるか短編集』(あじさいノベルス)を読む。 題名通り、紫藤はるかさんという作者が同人誌に書いたものをまとめたもの+αの電子書籍。 エアミステリ研究会というネットサークルの方々をいつ頃からフォローするようになったかはすっかり忘れてしまった…

初期衝動についての断章

このところ、TL上で市川哲也『名探偵の証明』シリーズが話題になっていた。私も一作目と二作目を読んだ時に感想を記したけれども、admiralgotoさんの第二作に関する記事を読んで、「持たざる者の戦い方」という評言に膝を打ち、しかし同時に異なることも浮…

アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

知人が某誌に「都市SF」論を書いていたので、そこで紹介されていた、SFミステリの名作として名高い本書を読んでみた。 舞台は三千年ほど進んだ未来。地球は、先住民である地球人と、かつて地球から銀河の星々へ移民し、高度な文化を発展させて逆に地球人…

殊能将之の書評集の情報が

季刊誌『かつくら』最新号(2015年冬号)に殊能センセーの書評集が刊行予定との情報が掲載されていると知り(via 千年雪さん)、さっそく見てみました。 といっても、編集者に対するアンケート特集の冒頭に講談社の社員らしき方が寄せた文章中にさらっと一行…

殊能将之を再読する/「鏡の中は日曜日」(4)

作品がリレーするもの(続き) 綾辻行人と同じ京都大学推理小説研究会出身の円居挽は、野性時代2014年6月号の「私の愛する本格ミステリ」特集に寄せて、「私の偏愛ミステリ作品」というテーマに『鏡の中は日曜日』を挙げ、こう述べている。 本格ミステリの華…

殊能将之を再読する/「鏡の中は日曜日」(3)

【殊能将之『鏡の中は日曜日』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】 作品がリレーするもの 私は前回、「『鏡の中は日曜日』は本格なのか否か」という疑問を書きだしたまま、言いっぱなしにしてしまった。三年前http://d.hatena.ne.jp/kkkbe…

殊能将之を再読する/「鏡の中は日曜日」(2)

【殊能将之『鏡の中は日曜日』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】偶然の一致について 本書の惹句としてノベルス版と文庫版のカバー裏にはそれぞれこうある。 ノベルス版:隙なく完璧な本格ミステリ! 文庫版:まさに完璧な本格ミステリ。…

殊能将之を再読する/『鏡の中は日曜日』(1)

【殊能将之『鏡の中は日曜日』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】 『鏡の中は日曜日』については、三年前の夏にも再読した。その少し前から、自分の中では「詩と散文」への関心が大きくなっていたから、だいたいそれに引きつけて読んだよ…

そろそろ『鏡の中は日曜日』を再読したいと思います。

前回http://d.hatena.ne.jp/kkkbest/20140715/1405441087からまたしてもだいぶ時間が経ってしまいました。その間に夏があり、ラヴクラフトやツェランやマラルメやをシッカリ読もうとしていたのですが、ままなりませんでした。特にラヴクラフトについてはまっ…

浦賀和宏『姫君よ、殺戮の海を渡れ』を読んだ

浦賀和宏『姫君よ、殺戮の海を渡れ』(幻冬社文庫)を読んだ。このところ同文庫で続いていたフリーライターのシリーズとは別物で、いちおう単独作になるのだろうけど、安藤シリーズを先に読んでおくとより楽しめる。ふつうの意味で「大傑作!」とはいいがた…

秩序化と非秩序化

深水黎一郎『最後のトリック』(河出文庫。メフィスト賞受賞作『ウルチモ・トルッコ』の改稿版)巻末の島田荘司による解説を読んでいたら、単なる解説というより推理小説という運動をめぐる小史となっていたので驚いた。こうした解説になじんだ向きにはいさ…

殊能将之を再読する/『黒い仏』(5)

【殊能将之『黒い仏』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】 『黒い仏』はどのようにして書かれたのか 前回、新しい書き手に出てきて欲しい、ということを述べたので、『黒い仏』がどのようにして書かれたのかを私なりに推測してみたい。と…

周木律『双孔堂の殺人』を読んだ

『双孔堂の殺人』は、メフィスト賞を受賞したデビュー作『眼球堂の殺人』に続く第二作。発売(2013年8月)から割とすぐに読んだものの、期待と異なり、じっさい評判も前作よりいくらか良くないようなので、特に何も感想を書かなかった。しかしあまり具体的な…

城平京『虚構推理 鋼人七瀬』を読んだ

「城平京、面白いよ」 人からそう薦められたのはもう十年近くも前だが、先々月、『虚構推理 鋼人七瀬』(講談社ノベルス、2011)で初めてこの著者の作品を読んだ。なかなか興味深かった。しかし本書をめぐっては賛否両論あることを事前にいろいろと聞いてお…

殊能将之を再読する/『黒い仏』(2)

21世紀初頭の評価について 『黒い仏』は現在、一種の“奇書”として知られているが、2001年1月に刊行されたこの本を私はリアルタイムで読んではいないので(2003年頃だった)、当時どのように評価されたのか正確なところがよくわからない。そこで、年末ランキ…

「ハサミ男の秘密の日記」に関する推測

admiralgotoさんがまとめられたTogetter「殊能将之『ハサミ男の秘密の日記』を読まれた方の反応」を、なぜか勝手に更新させていただく(僭越ながらまとめさせていただいた皆さん、無断ですみません)。 作家の死後、消失した公式サイトの内容の復活や、友人…

続・連城さんは……

連城三紀彦氏が亡くなられたという(2013年10月19日)。 もう五年ほど経つのか、以前ここに、「国文学 解釈と鑑賞」の「特集・現代作家と宗教 仏教篇」の連城論を読んだとメモしたことがあった(論文の筆者は横井司氏)。 その時の最新刊は、出たばかりの『…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(4)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】 ※ 夜の力、昼の力 横溝作品が“暗い”いっぽう、『美濃牛』は“明るい”といわれる。しかし注意して読むならば、金田一ものでも殺人事件の渦中とは思えないほどのんびりした雰…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(3)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】 ※ 迷路の中/外へ 前回引用した、「平易な文章」を書く「頭がいい」作者の系譜は、一種の文学論といえるだろう。しかし他方で、「頭がいい」作者については後年、このよう…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(2)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】まず前回、だいぶ酷い勘違いを一点書いてしまったのでその訂正を。 前回、『美濃牛』の叙述形式に関して、「三人称・多視点・現在」だと書き、また〈『美濃牛』において、語…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(1)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】 第二作『美濃牛』をどう受け止めていいのか、迷う人も多いようだ。かくいう私もその一人で、横溝正史へのオマージュにしてシリーズ探偵石動戯作の初登場作品である、作者の…

発言紹介いくつか

殊能将之作品のひとり再読企画でいまいろいろと読んでいるんだけど、第二作『美濃牛』は実は一番ピンと来ない作品なので、どう読んだらいいんだろう、と迷っているところ。最も根本的な部分である「なぜ、いま(刊行は2000年)横溝正史なのか?」というとこ…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(4)

【『ハサミ男』の真相に触れていますのでご注意ください】 対話とズレ 殺人というのは存在を非存在へと変質させる絶対的な暴力で、どうしてかはわからないが、「わたし」はそうした暴力を振るわずにいられない。先述の「ユリイカ」(1999年12月号)のインタ…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(3)

【『ハサミ男』の真相に触れていますのでご注意ください】 ※ SCISSOR MAN and OUR MUSIC 先日、たまたま山城むつみ『ドストエフスキー』という本を読んでいたら、ゴダールの映画『アワーミュージック』についての記述に出くわした。それは、映画内でも重要な…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(2)

【『ハサミ男』の真相に触れていますのでご注意ください】 ※ SNIP and SHOT さて約束のハサミ。昨年、後藤明生の『挾み撃ち』(1973、現在は講談社文芸文庫)という作品を再読した際、「これは何か『ハサミ男』に通じるものがあるのではないか」と漠然と感じ…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(1)

殊能将之氏が亡くなられたという。 2013年2月11日。49歳。現存する作家の中では最も敬愛する一人だった。 このブログでは以前、『鏡の中は日曜日』と『子どもの王様』について読み返した感想を書いたことがあるが、訃報を聞いて久しぶりに『ハサミ男』から再…

a day in the life of mercy snow

ミステリ作家の殊能将之氏が亡くなられたということで、旧作を再読しつつ、現在は失われた公式サイト「a day in the life of mercy snow」の記述を振り返っている。 去年の夏、so-netからは削除されたが、インターネット・アーカイブで旧アドレスを入力すれ…

続・米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI』を読んだ

前回に続き、作品についてネタバレしていますので、未読の方はご注意ください。 恋愛について 作中、「強姦魔」と比較して語られる存在がある。名探偵だ。「論理」を語る者としての「名探偵」の存在の限界や疑問はこれまで、ある時は告発的に、ある時は滑稽…

米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI』を読んだ

「一昔前のメフィスト賞系を思わせるトンデモミステリ」とここのところ一部で話題になっていたので、米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI』(HJ文庫、2013)を読んだ。 いわゆる「ライ…

『子どもの王様』讃

殊能将之は作中の博識や「ミステリ」ジャンルに対する批評的なスタンスおよびトリック、俗なユーモアなどでいわゆる「クセモノ作家」としてその読者には受けとられていると思うが、〈かつて子どもだったあなたと少年少女のための――〉と銘打たれるジュブナイ…