立ち読み師たちの街

襤褸は着ててもロックンロール

ミステリ

サンプリング・アルバムは走馬灯の夢を見るか?――法月綸太郎『挑戦者たち』

法月綸太郎の『挑戦者たち』を読んで、僕はずいぶん懐かしい気持ちになった。十代の頃、むさぼるように読みふけった本格ミステリで接した「読者への挑戦」という文章から受けた、あの不思議な感じを思い出したからだ。 この本の形式をどう呼ぶかは難しい問題…

市川哲也『蜜柑花子の栄光 名探偵の証明』(東京創元社、2016)を読みました。鮎川賞受賞作から続くシリーズ三作目にして完結編。前二作以上に凄まじく、圧倒された……というのは、あんまりポジティブな意味ではないんですけども。 私は基本的に、この著者を…

メタミステリの怪作、連城三紀彦『ため息の時間』を読む

連城三紀彦『ため息の時間』を読んだ。 これは「すばる」に1990~1991年の約一年間連載されていたもので、連城流心理恋愛ミステリとモデル小説とメタフィクションを合体させたような作風である。著者の作品の中でも一、二位を争う怪作との評判高く、実際その…

「叙述トリック」についてのメモ(6)

今更ではあるが、以下の議論に一度、目を通していただきたい。 http://togetter.com/li/295513 ここで「叙述トリック」という言葉が何を指すのかについては、その言葉について、じっくりと考えたことのある者でなければ、かなり混乱してしまうのではないだろ…

「これは推理小説ではない」

これまで何度か触れたことのある話題ですが、今回はもう少し詳しくまとめておきます。 ※ 解決編で登場人物が「これは推理小説ではなく現実なのだから……」といって、平々凡々な真相を示す作品の系譜というものがあります。そのセリフによって、トリックがショ…

梶龍雄ルネッサンスのために――『龍神池の小さな死体』

梶龍雄『龍神池の小さな死体』(講談社、1979) 乱歩賞受賞の『透明な季節』(1977)から数えると六冊目。いわゆるスリーピング・マーダーもの。時は大学紛争の季節。主人公の大学教授・仲城は、死に際の母から「戦時中に疎開先で溺死したお前の弟は実は殺さ…

「叙述トリック」についてのメモ(5)

「叙述トリック」と語りの構造 物語言説(ナラトロジー)関係の本をいろいろ見ると、作者と読者の関係は、だいたいこういうふうになっている。 作者−内在する作者−語り手−物語−聴き手−内在する読者−読者 もちろん様々な異見がありもっと詳しい場合もあるけれ…

「叙述トリック」についてのメモ(4)

文脈とキャプション 数年前、こういうコピペを見た。 俺、子供んときに近所の子にプロポーズしたことあるけど そのネタで小学校で「あいつが私にwぷぷぷ」って6年馬鹿にされ、 中学校で3年馬鹿にされ、高校でも3年馬鹿にされ 今だに夕食の時に馬鹿にされ…

「叙述トリック」についてのメモ(3)

作者と語り手 だいぶ間が開きました。雨続きですが、皆さんお元気ですか。見通しが立ってきたので、再開することにします。 この前からジョジュツ、ジョジュツといっていたが、そもそも小説にとって「叙述」とは何なのか。迂遠なようだけど、そのへんをこの…

後輩にあたる伊吹亞門さんという方がミステリーズ!新人賞を受賞したそうです。おめでとうございます。 http://www.tsogen.co.jp/award/mysteries/ 受賞作は10月発売の「ミステリーズ!」に掲載されるそうです。短篇の新人賞は本にまとめるのにだいぶ時間が…

「叙述トリック」についてのメモ(2)

「叙述トリック」という言葉が指すもの 「叙述トリック」という言葉は広く使われながら、論者によってその指し示す意味が微妙に異なるらしい。私も詳しくはないけれど(妙なところはご指摘ください)、とりあえずここでは我孫子武丸「叙述トリック試論」の定…

唐突に「叙述トリック」についての云々http://d.hatena.ne.jp/kkkbest/20150729/1438166625をぶち上げてしまったので、せっかくだからいろいろ読んでみようと取り寄せているところ。 斎藤栄の「ストリック理論」は名のみ知っていたので『新版 ミステリーを書…

「叙述トリック」についてのメモ(1)

「叙述トリック犯罪学教程」 叙述トリックについての考察はネット上にもかなり有益な考察があるけれど、最近「あざらしさん( @azarashidayou )による叙述トリック犯罪学教程」http://togetter.com/li/433684(以下「教程」と略す。また「叙述トリック」に…

ピエール・ルメートル『その女アレックス』をやっとこ読む。最後でムムーンとうなってしまう。警察のあの対応はアリなんでしょうか。あとで『死のドレスを花嫁に』も読んでみます。 ※ 河添太一『謎解きドリル』の最終三巻がいよいよ来週。 ウェブで遅ればせ…

麻耶雄嵩の新刊『あぶない叔父さん』は未読なんですが、ネマノさんの感想を読んでいたら次のようにあったので笑った。 縛りのなかで最大限読者を楽しませようと苦心はしていて、あの枠内では最大限機能している。豪腕ですよね。誠実ですよね。「最近の麻耶は…

一段落したので、また何かしら読んだりできるであろう。というか、『記念日の本』がいい加減読みたいっす(まだ最初の一編しか読んでない)。あと、「フランスミステリの勘違い」も確かめたいなあ。 ※ 新刊『怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』はもう出てい…

十階堂一系『赤村崎葵子の分析はデタラメ』(電撃文庫) TLで評判が良かった作品。高校の「分析部」という独自のグループに所属するヒロインと主人公を軸に、ラブレターの指定場所になぜ誰も来なかったのか/サラリーマン風の男はなぜ一万円も募金したのか…

『紫藤はるか短編集』(あじさいノベルス)を読む。 題名通り、紫藤はるかさんという作者が同人誌に書いたものをまとめたもの+αの電子書籍。 エアミステリ研究会というネットサークルの方々をいつ頃からフォローするようになったかはすっかり忘れてしまった…

初期衝動についての断章

このところ、TL上で市川哲也『名探偵の証明』シリーズが話題になっていた。私も一作目と二作目を読んだ時に感想を記したけれども、admiralgotoさんの第二作に関する記事を読んで、「持たざる者の戦い方」という評言に膝を打ち、しかし同時に異なることも浮…

アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

知人が某誌に「都市SF」論を書いていたので、そこで紹介されていた、SFミステリの名作として名高い本書を読んでみた。 舞台は三千年ほど進んだ未来。地球は、先住民である地球人と、かつて地球から銀河の星々へ移民し、高度な文化を発展させて逆に地球人…

殊能将之の書評集の情報が

季刊誌『かつくら』最新号(2015年冬号)に殊能センセーの書評集が刊行予定との情報が掲載されていると知り(via 千年雪さん)、さっそく見てみました。 といっても、編集者に対するアンケート特集の冒頭に講談社の社員らしき方が寄せた文章中にさらっと一行…

殊能将之を再読する/「鏡の中は日曜日」(4)

作品がリレーするもの(続き) 綾辻行人と同じ京都大学推理小説研究会出身の円居挽は、野性時代2014年6月号の「私の愛する本格ミステリ」特集に寄せて、「私の偏愛ミステリ作品」というテーマに『鏡の中は日曜日』を挙げ、こう述べている。 本格ミステリの華…

殊能将之を再読する/「鏡の中は日曜日」(3)

【殊能将之『鏡の中は日曜日』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】 作品がリレーするもの 私は前回、「『鏡の中は日曜日』は本格なのか否か」という疑問を書きだしたまま、言いっぱなしにしてしまった。三年前http://d.hatena.ne.jp/kkkbe…

殊能将之を再読する/「鏡の中は日曜日」(2)

【殊能将之『鏡の中は日曜日』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】偶然の一致について 本書の惹句としてノベルス版と文庫版のカバー裏にはそれぞれこうある。 ノベルス版:隙なく完璧な本格ミステリ! 文庫版:まさに完璧な本格ミステリ。…

殊能将之を再読する/『鏡の中は日曜日』(1)

【殊能将之『鏡の中は日曜日』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】 『鏡の中は日曜日』については、三年前の夏にも再読した。その少し前から、自分の中では「詩と散文」への関心が大きくなっていたから、だいたいそれに引きつけて読んだよ…

そろそろ『鏡の中は日曜日』を再読したいと思います。

前回http://d.hatena.ne.jp/kkkbest/20140715/1405441087からまたしてもだいぶ時間が経ってしまいました。その間に夏があり、ラヴクラフトやツェランやマラルメやをシッカリ読もうとしていたのですが、ままなりませんでした。特にラヴクラフトについてはまっ…

浦賀和宏『姫君よ、殺戮の海を渡れ』を読んだ

浦賀和宏『姫君よ、殺戮の海を渡れ』(幻冬社文庫)を読んだ。このところ同文庫で続いていたフリーライターのシリーズとは別物で、いちおう単独作になるのだろうけど、安藤シリーズを先に読んでおくとより楽しめる。ふつうの意味で「大傑作!」とはいいがた…

秩序化と非秩序化

深水黎一郎『最後のトリック』(河出文庫。メフィスト賞受賞作『ウルチモ・トルッコ』の改稿版)巻末の島田荘司による解説を読んでいたら、単なる解説というより推理小説という運動をめぐる小史となっていたので驚いた。こうした解説になじんだ向きにはいさ…

殊能将之を再読する/『黒い仏』(5)

【殊能将之『黒い仏』の趣向に触れていますので、未読の方はご注意ください】 『黒い仏』はどのようにして書かれたのか 前回、新しい書き手に出てきて欲しい、ということを述べたので、『黒い仏』がどのようにして書かれたのかを私なりに推測してみたい。と…

周木律『双孔堂の殺人』を読んだ

『双孔堂の殺人』は、メフィスト賞を受賞したデビュー作『眼球堂の殺人』に続く第二作。発売(2013年8月)から割とすぐに読んだものの、期待と異なり、じっさい評判も前作よりいくらか良くないようなので、特に何も感想を書かなかった。しかしあまり具体的な…

城平京『虚構推理 鋼人七瀬』を読んだ

「城平京、面白いよ」 人からそう薦められたのはもう十年近くも前だが、先々月、『虚構推理 鋼人七瀬』(講談社ノベルス、2011)で初めてこの著者の作品を読んだ。なかなか興味深かった。しかし本書をめぐっては賛否両論あることを事前にいろいろと聞いてお…

殊能将之を再読する/『黒い仏』(2)

21世紀初頭の評価について 『黒い仏』は現在、一種の“奇書”として知られているが、2001年1月に刊行されたこの本を私はリアルタイムで読んではいないので(2003年頃だった)、当時どのように評価されたのか正確なところがよくわからない。そこで、年末ランキ…

「ハサミ男の秘密の日記」に関する推測

admiralgotoさんがまとめられたTogetter「殊能将之『ハサミ男の秘密の日記』を読まれた方の反応」を、なぜか勝手に更新させていただく(僭越ながらまとめさせていただいた皆さん、無断ですみません)。 作家の死後、消失した公式サイトの内容の復活や、友人…

続・連城さんは……

連城三紀彦氏が亡くなられたという(2013年10月19日)。 もう五年ほど経つのか、以前ここに、「国文学 解釈と鑑賞」の「特集・現代作家と宗教 仏教篇」の連城論を読んだとメモしたことがあった(論文の筆者は横井司氏)。 その時の最新刊は、出たばかりの『…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(4)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】 ※ 夜の力、昼の力 横溝作品が“暗い”いっぽう、『美濃牛』は“明るい”といわれる。しかし注意して読むならば、金田一ものでも殺人事件の渦中とは思えないほどのんびりした雰…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(3)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】 ※ 迷路の中/外へ 前回引用した、「平易な文章」を書く「頭がいい」作者の系譜は、一種の文学論といえるだろう。しかし他方で、「頭がいい」作者については後年、このよう…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(2)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】まず前回、だいぶ酷い勘違いを一点書いてしまったのでその訂正を。 前回、『美濃牛』の叙述形式に関して、「三人称・多視点・現在」だと書き、また〈『美濃牛』において、語…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(5)

【『ハサミ男』の真相に触れていますのでご注意ください】 『ハサミ男』について、(4)まででいったんは感想をまとめたつもりだったものの、その後、「いや、やっぱり違うんじゃないかな」と思う点が出てきたので、最後にもう一度、書いておきたい(それに…

殊能将之を再読する/『美濃牛』(1)

【殊能将之『美濃牛』の展開について触れていますので、未読の方はご注意ください】 第二作『美濃牛』をどう受け止めていいのか、迷う人も多いようだ。かくいう私もその一人で、横溝正史へのオマージュにしてシリーズ探偵石動戯作の初登場作品である、作者の…

発言紹介いくつか

殊能将之作品のひとり再読企画でいまいろいろと読んでいるんだけど、第二作『美濃牛』は実は一番ピンと来ない作品なので、どう読んだらいいんだろう、と迷っているところ。最も根本的な部分である「なぜ、いま(刊行は2000年)横溝正史なのか?」というとこ…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(4)

【『ハサミ男』の真相に触れていますのでご注意ください】 対話とズレ 殺人というのは存在を非存在へと変質させる絶対的な暴力で、どうしてかはわからないが、「わたし」はそうした暴力を振るわずにいられない。先述の「ユリイカ」(1999年12月号)のインタ…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(3)

【『ハサミ男』の真相に触れていますのでご注意ください】 ※ SCISSOR MAN and OUR MUSIC 先日、たまたま山城むつみ『ドストエフスキー』という本を読んでいたら、ゴダールの映画『アワーミュージック』についての記述に出くわした。それは、映画内でも重要な…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(2)

【『ハサミ男』の真相に触れていますのでご注意ください】 ※ SNIP and SHOT さて約束のハサミ。昨年、後藤明生の『挾み撃ち』(1973、現在は講談社文芸文庫)という作品を再読した際、「これは何か『ハサミ男』に通じるものがあるのではないか」と漠然と感じ…

殊能将之を再読する/『ハサミ男』(1)

殊能将之氏が亡くなったという。 2013年2月11日。49歳。現存する作家の中では最も敬愛する一人だった。 このブログでは以前、『鏡の中は日曜日』と『子どもの王様』について読み返した感想を書いたことがあるが、訃報を聞いて久しぶりに『ハサミ男』から再読…

a day in the life of mercy snow

ミステリ作家の殊能将之氏が亡くなられたということで、旧作を再読しつつ、現在は失われた公式サイト「a day in the life of mercy snow」の記述を振り返っている。 去年の夏、so-netからは削除されたが、インターネット・アーカイブで旧アドレスを入力すれ…

続・米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI』を読んだ

前回に続き、作品についてネタバレしていますので、未読の方はご注意ください。 恋愛について 作中、「強姦魔」と比較して語られる存在がある。名探偵だ。「論理」を語る者としての「名探偵」の存在の限界や疑問はこれまで、ある時は告発的に、ある時は滑稽…

米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI』を読んだ

「一昔前のメフィスト賞系を思わせるトンデモミステリ」とここのところ一部で話題になっていたので、米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI』(HJ文庫、2013)を読んだ。 いわゆる「ライ…

『子どもの王様』讃

殊能将之は作中の博識や「ミステリ」ジャンルに対する批評的なスタンスおよびトリック、俗なユーモアなどでいわゆる「クセモノ作家」としてその読者には受けとられていると思うが、〈かつて子どもだったあなたと少年少女のための――〉と銘打たれるジュブナイ…

つらつらと10:「驚きの減衰」について

エラリー・クイーンの長篇を読みながら。>と書いてから四ヶ月、まだまだ全くクイーンについて書けそうにない。 というわけで、また別の話題にしよう。 今日たまたま、荻原魚雷氏のブログ文壇高円寺の最新エントリと、雑誌「メフィスト」最新号に掲載された殊…

つらつらと9:続々・「ロジック」を読むことについて――『離れた家 山沢晴雄傑作集』を読む

【『離れた家 山沢晴雄傑作集』収録作品の真相について若干触れていますので、未読の方はご注意ください】 (承前) だんだん自分の手に負えなくなってきた気もするが、まとめてみよう。 しかし、前回の「複雑さ」という言い方も大雑把だ。私はそれが、どの…