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襤褸は着ててもロックンロール

ミステリ

「宇宙人問題(ミステリの推理が常識外の可能性を無視する問題)」にかんする雑感

本を読まない弟に「殺人事件で全部宇宙人の仕業でした、みたいな可能性を無視できるのは何で?」と言われた - Togetter 話題になっていたので、読んでみた。が、まとめられていない呟きも多くあり(直接言及しない人も多かった)、そちらの方に面白いコメン…

柾木政宗『ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~』

柾木政宗『ネタバレ厳禁症候群』(講談社タイガ、2019)は「ユウ&アイ」シリーズの第二作。前作『NO推理、NO探偵?』と同じく、メタフィクションを志向している。 この『ネタバレ厳禁症候群』には、日本のミステリ史上でも珍しいと思われるある特異な記述が…

メフィスト評論賞について。

フトした事情から違う名前(「古川欧州」名義)で応募したんですが、このたび「蘇部健一は何を隠しているのか?」でメフィスト評論賞円堂賞をいただきました。 http://kodansha-novels.jp/mephisto/criticism/ 法月綸太郎さんと円堂都司昭さんの選考対談は「…

ストレンジ・フィクションズpresents『異色作家短篇集リミックス』の電子書籍版情報

『異色作家短篇集リミックス』が2019年5月21日までの期間限定で電子書籍版を発売しているようなので、こちらでもお知らせしておきます。 strange-fictions.booth.pm なぜ期間限定なのかは私は詳しくは知りません。すみません。 創作篇のうち、紙月真魚さんの…

「推理」小説か、推理「小説」か?

以下はいつものように思いついたことを試論というか一晩で走り書きしたものです。 *〈「推理」小説か推理「小説」か〉という評言を初めて見たのは学生時代、おそらく何かの文庫解説(1980年代のミステリ小説だったはず)で、以来、似たようなフレーズを見か…

柾木政宗『NO推理、NO探偵?』

【本書の趣向に触れている箇所があります】 第53回メフィスト賞受賞作。 読み始めればすぐにわかるが、本作はメタフィクションだ。2000年前後の一時期、メタフィクション(あるいはメタミステリ)が持ち上げられる傾向があったが、メタフィクションだから新…

山村正夫『断頭台』

表題作を読んで、かつてスタンリイ・エリン『特別料理』の1982年版訳者(田中融二)あとがきにあった「よほどバカでもないかぎり二ページも読めば作者が何を書くつもりでいるのか見当がつくので、徹頭徹尾ムードで、読ませる作品」という言葉を想起した。そ…

澤木喬『いざ言問はむ都鳥』

1 さいとうななめ改め織戸久貴サンが以前言及していたから評判だけは知っていて(いま検索したらその言及はもう四年前だった)、フト思いたって読んだら大変すばらしかった。 著者は1961年生まれというから親本刊行時(1990年)は28~29歳だったのではない…

木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』

木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』(講談社タイガ、2017)を読んだ(実は読んだのは二か月前ですが、ぼやっとしているうちにもう続刊が出たらしいので、急いで一巻目の感想を書き付けます)。 この小説はフシギな構造をしていて、主人公(三人称視点人物)の…

松井和翠編『推理小説批評大全総解説』

来たる5月6日(日)に東京文学フリマで頒布開始される松井和翠さん編の『推理小説批評総解説』の巻末座談会&アンケートに、秋好亮平さん(探偵小説研究会)と一緒に参加しました。 この本は日本のミステリ批評をオールタイム・ベスト的に70編選んでそれに解…

狭義の叙述トリックとその他の分類――「叙述トリック」についてのメモ(8)

(6)で書いたことを、より詳しめに整理してみよう。 以下でとりあげる概念は巷間、「どんでん返し」だとか「叙述トリック」だとかと呼ばれて色々混同されているが、それらは実は各々異なると示すことで、議論をスッキリさせたいというのが私の目的である。…

梶龍雄『浅間山麓殺人推理』

梶龍雄『浅間山麓殺人推理』(徳間文庫、1988/『殺人への勧誘』光風社ノベルス〉、1984の改題)読み終わり。これはいつもとは趣向が変わっていて、枠物語ふうになっている。冒頭、浅間の山荘に集められた男女五人がいきなり銃で狙撃される。彼らはみな、殺…

文学フリマについて

そういえば↓で予告したように今度、2017年11月23日東京開催の文学フリマに出ます。 11月23日の東京文学フリマに「立ち読み会」名義で参加しますhttps://t.co/iQzCwEp0de(2Fのウ-40)頒布物は殊能将之先生の『ハサミ男』『美濃牛』『黒い仏』についての読書…

サンプリング・アルバムは走馬灯の夢を見るか?――法月綸太郎『挑戦者たち』

法月綸太郎の『挑戦者たち』を読んで、僕はずいぶん懐かしい気持ちになった。十代の頃、むさぼるように読みふけった本格ミステリで接した「読者への挑戦」という文章から受けた、あの不思議な感じを思い出したからだ。 この本の形式をどう呼ぶかは難しい問題…

市川哲也『蜜柑花子の栄光 名探偵の証明』(東京創元社、2016)を読みました。鮎川賞受賞作から続くシリーズ三作目にして完結編。前二作以上に凄まじく、圧倒された……というのは、あんまりポジティブな意味ではないんですけども。 私は基本的に、この著者を…

メタミステリの怪作、連城三紀彦『ため息の時間』を読む

連城三紀彦『ため息の時間』を読んだ。 これは「すばる」に1990~1991年の約一年間連載されていたもので、連城流心理恋愛ミステリとモデル小説とメタフィクションを合体させたような作風である。著者の作品の中でも一、二位を争う怪作との評判高く、実際その…

「叙述トリック」についてのメモ(6)

今更ではあるが、以下の議論に一度、目を通していただきたい。 http://togetter.com/li/295513 ここで「叙述トリック」という言葉が何を指すのかについては、その言葉について、じっくりと考えたことのある者でなければ、かなり混乱してしまうのではないだろ…

「これは推理小説ではない」

これまで何度か触れたことのある話題ですが、今回はもう少し詳しくまとめておきます。 ※ 解決編で登場人物が「これは推理小説ではなく現実なのだから……」といって、平々凡々な真相を示す作品の系譜というものがあります。そのセリフによって、トリックがショ…

梶龍雄ルネッサンスのために――『龍神池の小さな死体』

梶龍雄『龍神池の小さな死体』(講談社、1979) 乱歩賞受賞の『透明な季節』(1977)から数えると六冊目。いわゆるスリーピング・マーダーもの。時は大学紛争の季節。主人公の大学教授・仲城は、死に際の母から「戦時中に疎開先で溺死したお前の弟は実は殺さ…

「叙述トリック」についてのメモ(5)

「叙述トリック」と語りの構造 物語言説(ナラトロジー)関係の本をいろいろ見ると、作者と読者の関係は、だいたいこういうふうになっている。 作者−内在する作者−語り手−物語−聴き手−内在する読者−読者 もちろん様々な異見がありもっと詳しい場合もあるけれ…

「叙述トリック」についてのメモ(4)

文脈とキャプション 数年前、こういうコピペを見た。 俺、子供んときに近所の子にプロポーズしたことあるけど そのネタで小学校で「あいつが私にwぷぷぷ」って6年馬鹿にされ、 中学校で3年馬鹿にされ、高校でも3年馬鹿にされ 今だに夕食の時に馬鹿にされ…

「叙述トリック」についてのメモ(3)

作者と語り手 だいぶ間が開きました。雨続きですが、皆さんお元気ですか。見通しが立ってきたので、再開することにします。 この前からジョジュツ、ジョジュツといっていたが、そもそも小説にとって「叙述」とは何なのか。迂遠なようだけど、そのへんをこの…

後輩にあたる伊吹亞門さんという方がミステリーズ!新人賞を受賞したそうです。おめでとうございます。 http://www.tsogen.co.jp/award/mysteries/ 受賞作は10月発売の「ミステリーズ!」に掲載されるそうです。短篇の新人賞は本にまとめるのにだいぶ時間が…

「叙述トリック」についてのメモ(2)

「叙述トリック」という言葉が指すもの 「叙述トリック」という言葉は広く使われながら、論者によってその指し示す意味が微妙に異なるらしい。私も詳しくはないけれど(妙なところはご指摘ください)、とりあえずここでは我孫子武丸「叙述トリック試論」の定…

唐突に「叙述トリック」についての云々http://d.hatena.ne.jp/kkkbest/20150729/1438166625をぶち上げてしまったので、せっかくだからいろいろ読んでみようと取り寄せているところ。 斎藤栄の「ストリック理論」は名のみ知っていたので『新版 ミステリーを書…

「叙述トリック」についてのメモ(1)

「叙述トリック犯罪学教程」 叙述トリックについての考察はネット上にもかなり有益な考察があるけれど、最近「あざらしさん( @azarashidayou )による叙述トリック犯罪学教程」http://togetter.com/li/433684(以下「教程」と略す。また「叙述トリック」に…

ピエール・ルメートル『その女アレックス』をやっとこ読む。最後でムムーンとうなってしまう。警察のあの対応はアリなんでしょうか。あとで『死のドレスを花嫁に』も読んでみます。 ※ 河添太一『謎解きドリル』の最終三巻がいよいよ来週。 ウェブで遅ればせ…

麻耶雄嵩の新刊『あぶない叔父さん』は未読なんですが、ネマノさんの感想を読んでいたら次のようにあったので笑った。 縛りのなかで最大限読者を楽しませようと苦心はしていて、あの枠内では最大限機能している。豪腕ですよね。誠実ですよね。「最近の麻耶は…

一段落したので、また何かしら読んだりできるであろう。というか、『記念日の本』がいい加減読みたいっす(まだ最初の一編しか読んでない)。あと、「フランスミステリの勘違い」も確かめたいなあ。 ※ 新刊『怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』はもう出てい…

十階堂一系『赤村崎葵子の分析はデタラメ』(電撃文庫) TLで評判が良かった作品。高校の「分析部」という独自のグループに所属するヒロインと主人公を軸に、ラブレターの指定場所になぜ誰も来なかったのか/サラリーマン風の男はなぜ一万円も募金したのか…